東京奇譚集

2009.10.21
東京奇譚集

著者:村上 春樹
出版社名:新潮社(新潮文庫)
発行年日:2007年12月
価格:\420
ISBN:978-4-10-100156-2

奇譚(きたん)とは、珍しい話、不思議な物語。本書は、リアリティでありながら不思議であやしいエッセンスを盛りこんだ5つの短編小説です。5つの物語に共通しているのは「受け入れる」事です。誰しもが持っている悪や忘れてしまいたい事、受け入れがたい事、辛い事などを、何かのきっかけで受けとめた時に不思議な未来への道が開けます。

ひとつ目の作品は「偶然の旅人」。本当の自分を語った事が原因で、家族、特に姉と仲たがいをしてしまったゲイのピアノ調律師が主人公です。いつものようにカフェで読書をしている時、偶然ひとりの女性と知り合い一緒にいて欲しいと告げられます。彼は惹かれるものの、恋人にも関係を持つ事もできない事をきちんと説明すると、彼女に乳がんの再検査を受けるという事を打明けられます。彼女と別れた後、姉を想い会って話をする事ができるようになりますが、姉も乳がんの手術を受ける前だったというお話です

この作品の中に「偶然の一致というのは、ひょっとして実はとてもありふれた現象なんじゃないだろうかって。つまりそういう類のものごとは僕らのまわりで、しょっちゅう日常的に起っているんです。でもその大半は僕らの目にとまることなく、そのまま見過ごされてしまいます」とあります。

自分の不幸や辛いことだけに目を向けず、その周りを見過ごさなかった時に何か新しい出口を見つけられるのではないでしょうか。それは、周りの人や自分自身とじっくり向かい合うことだと考えさせられます。 上からの目線で教えるのでなく、さりげなく大事な事を気付かせてくれる「心の潤い」を得るような作品集です。

(目次)
偶然の旅人
ハナレイ・ベイ
どこであれそれが見つかりそうな場所で
日々移動する腎臓のかたちをした石
品川猿

「今月の看護師」で2005年に看護師 井部俊子さんが紹介しています。


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