標高4000メートルのボリビアで働く仲間

堀内 成子
  • 2005/09
  • 助産師:堀内 成子

 成田空港を飛び立ってから、約28時間後にボリビアの首都ラパスに到着。
8月6日冷たい雨とヒョウがちらつく冬の日だった。私は、着陸の際のランディングで気分が悪く、さらに寒さでことばも出ない。迎えてくれたのは、JICAの長期専門家の助産師の田中さんと、看護師で調整員の伊藤さんである。二人は、海外青年協力隊の時代にボリビアでの経験があるスペイン語の堪能な女性たちである。

ボリビアは、南米大陸のほぼ中央、アンデス山脈の真ん中で海を持たない国である。ラパス市は、標高3650メートルの世界最高所にある首都として知られている。大きなすり鉢状の街は、上から日干しレンガの貧しい家々、底の部分は、高層ビルも立ち並ぶ裕福な人々の暮らす地域になっている。信号機のない急勾配の坂道を、乗り合いバスやトラックが黒い排気ガスを頭上から吐きながら走っている。日本車への信頼は厚くTOYOTA、NISSANと書いた中古車をたくさん見かける。民族衣装のスカートにマフラーそしておしゃれな帽子に身を包んだ女性たちが、道端で商売をしている。アンデスカラーの布にこどもを巻いておんぶしている、日焼けした母親の顔はたくましく輝いていた。

ラパス市を中心にして、JICAの母子保健プロジェクトは、ボリビア国の「安全な母性・出生」計画を支援し、特に「出産における母親とこどもに優しいケア」の普及を行っている。陣痛中の女性に優しく寄り添い痛みを緩和するケアという発想そのものが乏しかった産婦人科をもつ保健センターを中心とした活動が2004年から始まっている。これは、WHOの正常分娩の勧告や、エビデンスに基づく医療、ケアの質を向上させたいというボリビア保健・スポーツ省の考え、そしてブラジルでJICAが1999年から5年間にわたって展開した「人間らしい出産と出生」プロジェクトをモデルにして展開されている。

視察に行った4ヶ所の保健センターでは、陣痛が起こって入院してきた女性たちが過ごす部屋には、エンジ色のベッドとベッドを仕切るカーテンが新たに設置され、分娩中の自由な姿勢を表すJICA作成のポスターが貼られていた。痛みを緩和するためのマッサージを行うと、産婦さんが力づけられ、またマットレスの上で自由な姿勢を自分で探すことのできた女性たちは満足した出産体験であったとの評価である。

今回、一緒に出かけた短期専門家の毛利さんは、ブラジルでのプロジェクトの経験を持ち、どうやったらプロジェクトが成功するかを心得ていた。女性と医療スタッフが、お産というひとつの舞台を成功に導くために関係しあうことは、双方に内的変化が起こりそれは長期にわたって影響するという。「優しくされた経験」は、「他者への優しさに変換できる」と研修生も答えている。

ボリビアで初期研修を受けた医療スタッフの中から、意欲的な医師・看護師、准看護師をブラジルに送り、その変革の中心になるよう、またどのような成果を追跡するのを学ぶ機会を得た。ブラジルのプロジェクトは、「光のプロジェクト」と呼ばれ、出産が「光のなかへさしだす命」という意味からきているという。これはスペイン語圏のボリビアでも通じるものであった。日本からブラジルへ、そのリーディング・モデルがボリビアへと連鎖していた。

ボリビアの医療においては、いまだ医師と患者関係は指示者と従者であり、女性の意思の尊重という概念が、一般社会においても希薄であるという。DV(ドメスティック・バイオレンス)も多く、女性は妊娠・分娩時にも大切に扱われない現実もあるようだ。インカ文明から大切に引き継いできた人々の健康行動も尊重した人間らしいケアモデル、それも「女性を中心としたケア」(Women-centered care)の概念にそったアプローチを提供することが今回の私の任務である。

季節は冬だが日中は日差しがまぶしく紫外線は日本の20倍(?)、湿度は20%のため、顔はひび割れ、喉はカラカラ、眼からは涙である。日が沈むと急に5度程度に気温が下がるため、オーバーがないとブルブルである。高山病の予防をしていても、現実は厳しかった。坂を登れば息が切れ、食事をしては息が切れ、お風呂から上がれば息が切れ、2階まで階段を登れば息が切れるという状態であった。こんな厳しい自然環境で暮らしている人々に脱帽であった。そして異文化を超えて女性たちを応援し、精力的に働く日本の若い看護職にも乾杯といいたい。

向かって左から、毛利・田中・伊藤・堀内 市場で見かけた、子どもをおんぶするおかあさん!

●研究ページ
Women centered care プロジェクト
・性暴力被害者ケア
・不妊ケア

看護コミュニティ

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