在宅ホスピスケアに携わって

伊藤 美緒子
  • 2006/05
  • 訪問看護パリアン 訪問看護師:伊藤 美緒子

「家で目を閉じることができるなんて幸せだな、これからは家族とずっと一緒だからうれしいよ、最期のその時まであなたにお世話になります。」Aさんは体がだるく、ベッドに横になられていたのですが、私の姿を見つけると、起き上がってまっすぐな視線で私にそうおっしゃいました。Aさんは肝臓がんを患い、手術や抗がん剤治療を繰り返し受けてこられましたが、これ以上の治療法はなくなり、医師から緩和治療をすすめられました。そして、残された時間は住み慣れた自宅で家族とともに過ごしたいと願い、この日、退院されてきました。

現在、私は訪問看護パリアンで訪問看護師として働いています。訪問看護パリアンは在宅ホスピスケアを中心としたケアを提供している訪問看護ステーションです。私たちは協働するクリニックの医師、心のケア、ボランティアグループから構成されたグループの一つとして活動しています。在宅ホスピスケアとは、余命が限られた不治の患者さんが身体的・心理的・社会的・スピリチュアルな苦痛から解放され、残された日々を人間としての尊厳を保ちながら、心身ともに安楽に過ごすことができるよう、患者さんの生活の場である家で行うケアのことです。私たちは、最期の日々を家で過ごしたいと願う患者さんやご家族を専門家として関わり、サポートをしています。

パリアンでは在宅で過ごされている末期がんの患者さんを対象に在宅ホスピスケアを行っています。まず、患者さん本人やご家族が相談に来られ、ケアが開始されます。入院中の患者さんに対しては退院前に病院を訪問し、在宅での生活にスムーズに移行できるように病院と連携を図り、準備を整えるところから始めます。退院後、週3回の訪問看護と週1回の訪問診療をおこない、さまざまなことに対し援助を行っていきます。365日、24時間体制で緊急電話対応をし、必要時には看護師や医師が緊急訪問をしています。多くの患者さんは病気の進行に伴う、痛みやその他の苦痛な症状を訴えられます。訪問したときには出現している症状の程度などを確認し、症状の緩和に努めます。また、身体の状態を観察して、医師の包括指示のもと、薬剤の調整をしたり、少しでも安楽に過ごすことができるように生活のアドバイスやマッサージなどのケアを提供したりします。もちろん、保清、食事、排泄や安楽に過ごすことなどの日常生活の援助もします。ご家族が介護の中心となることが多いので、その方にとってより良い介護の方法を一緒に考え伝えます。

また、患者さんやご家族は食事がとれなくなったり、動けなくなったりなどの体の変化や症状の変化とともに、近づきつつある死と向き合っており、さまざまなつらさを抱えています。患者さんやご家族の訴えに耳を傾け、思いを共有できるよう努力しています。さらに、今後出現が予測される症状や、その対応の仕方を伝え、家族が家で安心して看取れるように支えていきます。在宅ホスピスケアは医師や薬剤師、理学療法士、ケアマネージャー、ヘルパー、ボランティアなどの多職種で関わっています。チームメンバーと情報を共有し、共通認識をもって患者さんのケアを行えるように調整もしています。また、家族が死別という悲しみを乗り越え生きる力を得られるようにグリーフケアも行っています。

はじめに紹介したようにAさんの在宅ホスピスケアは始まり、私が関わらせていただきました。胸に水が貯まっていることによる息苦しさやお腹の痛みがありましたが、オキシコンチンという麻薬の内服を開始してその症状は落ち着き、自宅で穏やかな生活を送っていらっしゃいました。週末には家族と別荘へ旅行に行き自然の中で大好きだった俳句も詠みました。私が訪問すると、さまざまなお話を聞かせてくださいました。病気のこと、お仕事のこと、趣味のこと、家族のこと、今の思い・・・。その中で、今まで自分が歩んできた人生を一つ一つ振り返って、今、家族とともに生きる意味を見出していらっしゃったのではないかと思いました。しばらくすると、動けなくなり身の回りのことを家族に委ねなくてはならなくなりました。家族も最初は不慣れな介護に戸惑っていましたが、訪問を重ねるたび、方法を身につけ、自信を持って介護をされていました。そして、家族に手を握られながら、安らかに息を引き取りました。

患者さんと日々接していて痛切に感じることがあります。人はみな、それぞれの異なる価値観や思いがあるのだということです。"これが常識だ"とか"何が正しい"ということはありません。その人は今日に至るまでいろいろな出来事があり、たくさんの経験をされてきて、さまざまな人生を歩んでいらっしゃいます。私たちが関わっている時間はその人の人生のほんの一部分です。でも、最期の大事な尊い時間・・・。だからこそ、ともに過ごせる時間を大切にし、患者さんやご家族の思いに寄りそっていきたいと思います。一人一人の出逢いに感謝をして・・・。

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