「今、私がここにいるということ  -Tender love careから-」

川上 千春
  • 2006/10
  • 聖路加看護大学 COE研究員
  • 看護師:川上 千春

初めて看護師として病院に入職する面接の時、「あなたはどんな看護師を目指していますか?」と聞かれた。その時私は、「"あなたが居ると元気になる"と患者さんにいってもらえるような看護師になりたい!」と答えたのを、今でも覚えている。

現場にいた時、果たして私はそんな看護師であっただろうか・・・。

看護師として4年目に突入する時、訪問看護というものに躊躇もせずに飛び込んだ。訪問看護って何?と考えもせずに・・・。たぶんその当時は在宅ケアという言葉も新しい言葉だったかと思う。訪問看護というものは、大学病院で働いていた時と全く違い、私って何者?看護って何?訪問看護って?と考えさせられ、また毎日が自問自答した日々であった。

そんな中、訪問看護を手探りで始めてちょうど1年たった頃、当時ステーション内に常勤としていたMSW (メディカルソーシャルワーカー)に、「結構手ごわいケースが飛び込んできたけど・・・」といわれMSWとバスに乗り、ケースの自宅まで初回訪問に同行した。あるマンションの一室に介護用のベッドが置いてあり、そのベッド上で布団をかぶって背を向けて寝ている80歳代女性の高齢者Aさんが寝ていた。声をかけるが聞こえているのか、いないのか・・・返事が無い。廊下を挟んで反対側の部屋にもベッドが置いてあり、50歳代ぐらいの女性がやはり寝ている。この女性BさんはAさんの嫁にあたり、長年、うつ病で自殺未遂を3度繰り返している。初回訪問をしてまず話をしたのは、Aさんの息子にあたるCさん。Cさんはせきを切ったように話し始めた。Bさんが3ヶ月前に3度目の自殺未遂を図ったため入院した。そのことにより、Aさんを近くの老人保健施設へ入所させたところ、「歩けなくなった上、呆けてしまって食事すら摂らなくなってしまった。そしてすっかり元気をなくし、排泄すらオムツに頼ることになってしまった」と。これ以上Aさんを入所させておくことは忍びず、慌てて退所の手続きをとった。その後、Aさん退所に合わせて半ば強引にBさんを退院させてしまった。Bさん退院後、家事はおろか自分自身の身なりを整える気も起きず、一家は食事にもこと欠いている。どうしたらいいのかわからない状況の中で、友人、介護ショップなど渡り歩き、訪問看護ステーションを紹介されてきた。

この一家を訪問看護師1人で担当するのは難しいのではと考え、Aさんは訪問看護師である私、Bさんは往診医、CさんはMSWと役割分担をした。往診医からの指示は、「この一家で一番重症なのはBさん。決して励まさず、全面的に彼女を受容すること」「Aさんは不本意な入所生活による一時的な認知症とうつ症状。"テンダーラブ・ケア"がよいでしょう」「Cさんは良かれと思ってBさんに過剰な指示を与えている。これを制限しないとBさんの回復は望めない」とのことだった。

えっ?!"テンダーラブ・ケア"って??「何もしないでみつめていること、そばにいること」だとその医師から教わった。今まで何かをすることが看護だと思っていた私にはどのようなことだか全く理解ができず、途方にくれた。スタッフで考えた結果、こう解釈した。「ひとりぼっちじゃないよ。いつもそばにいるよ。」というメッセージを送り続けることではないだろうかと・・・。訪問看護の上でした事は、一緒に食事をしたり、家族の中でもちょっとした会話を重ねていけるようにしたり、Aさんと散歩に出かけたりと・・・。それから4ヶ月程経った頃、意欲低下のために促さなければ何もしたがらない症状を呈していたAさんが「髪が汚いから床屋へ行きたい」というようになった。そしていつものように一緒に散歩に出かけた時、私に「私はずっとひとりぼっちだった。生まれた時から、ずっと・・・。」と話してくれた。私は思わず手をギュッと握り返してしまった。

"care"の語源は、「気にする」「気にかける」という意味なんですよね・・・

この一家を通して看護の原点を学ばせていただいた。現在、現場から足が遠のいているが、私が看護師として、「今、私がここにいるということ」の意味をもう一度考えていきたいと思う。

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