国際看護 ~国と言葉の壁を越えて~

長松 康子
  • 2007/09
  • 聖路加看護大学
  • 看護師:長松 康子

私は聖路加看護大学で国際看護学の教員をしています。国際看護は、健康をグローバルにとらえ、国境を越えて人々の健康に資するための看護を実践していくための科学です。聖路加看護大学には、将来、途上国を中心に海外で働きたいと考えている学生さんがたくさんいます。

しかし、私が学生のころは国際看護という概念はまだありませんでした。看護師が外国で働くといえば、アメリカで看護免許取得して看護師になることのほうがメジャーで、こちらを目指している先輩が何人もいました。

私が国際看護に興味をもったのは、外科病棟の経験からです。少し英語ができた私は、沢山の外国人患者さんを受け持ちました。
しかし、経鼻チューブや、酸素マスクが邪魔して、患者さんの言葉はなかなか聞き取れず、苦労しました。ましてや、気持ちを傾聴し、共感するとなれば、言葉だけでなく、患者さんの文化に根ざしたコミュニケーション能力が必要で、ネイティブ・スピーカーでない私にはお手上げでした。わからない、伝わらないことに悩む私に先輩看護師は「看護は言葉の障害を越える。」と、いい放ちました。釈然としないながらも、ケアを続ける私に、決定的な出来事が起こりました。脳血管障害の手術目的でグアムからヘリコプターで搬送されてきた外国人患者さんが、手術前に急死してしまったのです。はるばるグアムから付き添っていらしたご家族にどうやって説明したらよいのか途方にくれました。状況から、事実を伝える以上に、精神的ケアが必要で、それにはネイティブに匹敵する言語能力が必要なことは明らかだったからです。

看護は言葉ではありません。しかし、言葉がどうしても必要なときもあるのです。
外国人の方にも日本人と同じように良質な看護を提供してあげられる看護師がいてもいいと考えた私は、外国語での看護を習得する方法を探し始めました。どうしても外国にいって、さまざまな言葉と文化に触れる必要があると思い、文部科学省、外務省、厚生労働省、企業、学校、大使館と、考えつく限りのところに頼みに行きました。
しかし、若い看護師が渡航就労するのはまだまだ困難で、2年たっても渡航先は見つかりませんでした。看護協会では、「日本に看護師が足りないときに、学士看護師が外国で働くとはけしからん」と叱られました。
外国の病院をひとつひとつ、訪ねるうちに、シンガポールの看護協会の会長さんが自ら英語を指導してくださり、その後、イギリス系企業に勤務しました。アジア10カ国からの職員が働くその会社は、英語とアジア文化を学ぶにうってつけでした。その後大学院で国際保健学を学び、臨床に帰ることはありませんでしたが、若い頃に臨床で出会った患者さんのことを忘れることはありません。私の使命は、日本の外国人患者さんの健康のために働くこと、そしてこれから世界中に飛び立っていく看護師を育て、応援することだと思っています。

看護コミュニティ

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