住み慣れた病院から地域生活へ移るとき~看護師は伴走者

大熊 恵子
  • 2009/05
  • 看護師:大熊 恵子

この大学に来る前に、長期入院をしている統合失調症の方の退院支援をしている病棟で働いていました。統合失調症には"幻覚や妄想があって、それに左右されてしまう"というイメージがあると思いますが、それは急性期症状(陽性症状)で、慢性期になると穏やかになって引きこもって意欲が低下する(陰性症状)のが特徴です。1987年に精神保健法が改正され、精神障害者の地域生活を促進する方向になったのですが、それ以前は、病気が良くなっても病院内に収容しておくべき、という考えが根深くあり、50年以上入院している患者さんもいらっしゃいました。長期入院の方の場合、退院を機に一人暮らしを始める方も多くおられます。この場合、退院後は日常生活のことを自分でやらなくてはなりません。しかし、患者さんが入院した時代と今の生活は一変しています。ATMや自動改札、携帯電話の使い方がわからない、キャッチセールスの断り方がわからない、生活保護が支給されてもどうやりくりしていいのかわからない・・・入院生活が長かった分、退院後の生活では困りごとがたくさんあります。
また、入院中は日課が決まっていて、一日はあっという間に過ぎていきます。朝起きて、朝ご飯食べて、薬を飲んで、作業療法に行って、昼ごはん食べて、薬飲んで、作業療法に行って、夕ご飯食べて、薬飲んで、TV見て、寝る前の薬を飲んで、決まった時間に寝る。これに慣れている長期入院の方は、一人暮らしでは何をしていいのかわかりません。声をかけてくれる人がいない(入院生活との決定的な違いは「すぐそばにタイミングよく助けてくれる人がいない」ことです)ので、いつ何をしたらいいのかわからないこともあります。
このように「わからない」ことばかりでは、病気が良くなったから退院しましょうといわれても、無理というものです。私たちは「わからない」ことを患者さんと確認し話し合い、一緒に解決策を考えることに時間をかけて関わっていました。
統合失調症の方は思考に障害が残る場合もあり、自己決定が苦手な方も多いです。「私にはわからないから、看護師さんが決めて」という発言をする方もいらっしゃいました。しかし、退院後の生活は小さな自己決定の連続です。今日のメニューは何にするのか、洗濯はどうするのか、眠れないときに薬を飲むべきか・・・私たちが何気なくやっていることが統合失調症の方にとっては難しい問題なのです。考えるのが苦手な患者さんに自己決定ができるように働きかけることも精神看護の特徴です。自己決定ができると患者さんも自信がもてて、「退院できるかもしれない」と感じられるきっかけになります。また、決められずに困ったときには、自分からSOSを出すように伝えていました。困ったときに困ったと自ら言えること、けっこう難しいのです。自分からSOSが発信できるように、病室にナースコールを設置せず、自分でナースステーションに話に来るという練習をしたり、患者さんが困っていそうでも、あえて看護師は患者さんが言いに来るのを待って見守る(これは看護師にとってもきついのですが・・・)ということもありました。
今まで多くの患者さんの退院支援をしてきましたが、退院した患者さんが病棟に顔を見せに来てくれて、「退院してよかった。自由っていいね。楽しいよ!」という言葉を聞くと、一緒に考えてきてよかったなぁと感じ、私もまた看護師としての自信が持てて、また頑張る意欲がでてきます。精神看護の面白さは、看護師が伴走者として患者さんを支えながら、一緒に考えたり悩んだりして、お互いにいろんな体験を共有しながら達成感を味わえるところだと感じています。今後も精神看護の面白さを多くの人に伝えていきたいなぁと思います。(まず、自分の大学の学生さんたちに伝えたいし、それが私の今の役割だと思っています。)

※看護実践開発研究センターで、年3回精神訪問看護事例検討会を開催しています。退院した後の精神障害を有する方への訪問看護について検討しています。ぜひ、興味のある方は、御連絡下さい!

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