精神看護の世界にはまったわけ

沢田 秋
  • 2009/07
  • 看護師:沢田 秋

なぜ看護師になろうと思ったの?あるいは、なぜ精神科に興味を持ったの?と時々聞かれることがある。 特に理由はなく、ただ身近だったからだ。

私の母は精神科病院で長年看護師として働いていた。「患者さんが眠れないとき、ベッドに並んで腰かけ、肩に手を置き、話を聴くだけで、患者さんは落ち着いて楽になるの。精神科には、看護師ができることがたくさんあるんだよ。」と精神科看護に誇りを持って働く母の背中を見て育った私にとって、看護の道を選ぶのは自然な選択だった。高校時代に進路で迷ったりしたが、看護を選んでよかったと今は心から思う。こう思うのは、精神科の患者さんとの出会いからであった。精神疾患をもった方と、ここまで深く、病気も含めた生活全般に関わることができる職種はないと思う。病棟よりも、患者さんの家でそれを感じる。患者さんの、個性豊かでたくましいライフスタイルに触れるたびに、人間への興味が膨れ上がり、また医療職である私たちも、患者さんに励まされ支えられて生きていることを実感する。

「精神科訪問看護」は、精神疾患を持ちながら家で生活する人の生活をサポートする仕事である。症状や薬の援助のほか、病気によってできなくなった生活のお手伝いも行う。患者さんの生活は本当に様々だ。統合失調症で妄想を抱えつつ恋人と支えあって生活する仲のよいお二人、彼がアルバイトの面接で、ご自分のこだわりについて語り続け、かなりきつい一言を投げかけられて不採用になったのだが、「あんな言い方をする店長のところだから、行かなくてよかったわよ」と優しくねぎらう彼女の言葉に温かい気持ちになった。またある人は、毎日政治ニュースを欠かさず見ており、自分にお金があれば世の中を助ける発明ができるのになぁと、訪問看護のたびに新しいアイデアを披露してくださった。精神症状があっても、ご自分のペースを大切に、生活されている。そして、若いスタッフを育てようと、たくさんのことを教えてくださる。過去の精神病院の歴史、保護室に「入れられた」ときどんな気持ちだったのか・・・など。妄想や幻覚による恐怖を経験した方、家族や会社・友人との間にも様々な葛藤があった方・・・それを越えて今を生きる患者さんが語る言葉に、私は心動かされる。そこには、若い医師や看護師には到底追いつけない、人生の先輩としての姿があり、私は訪問看護をしている立場ではあるが、人生の先輩に教えていただくことの方が多いのだと、有難い気持ちになる。病を乗り越え、また病と付き合って生きる患者さんの相談に乗り、一緒に喜び、泣き、人生にお供させてもらえることは、今までの看護経験では得られない体験であった。

私にはまだ、母のようなベテランナースの技術はないけれども、ベテランに負けない感性豊かな、精神科についてわかる看護師を育てたいと思い、今看護教員として働いている。

精神科看護や地域ケアはこれからもっともっと人が必要となる。若い皆さんも、この魅力的な精神看護の世界でご一緒に働いてみませんか。自分の「あたりまえ」が崩れる感覚、価値観の転換があり、人生の幅が広がると思います。ご一緒に働ける日を楽しみにしています。

看護コミュニティ

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