高度救命救急センターでの出会い

石井 歩
  • 2019/11
  • 看護師:石井 歩

看護について何かを話すということが、経験年数を経るたびに多くなる。そのたびにいろんな経験を思い出すのだが、たくさんありすぎて困る。対象者や医療者とのかかわりが今の私をつくりあげているので、素敵な出会いをたくさんしている。

今回は、高度救命救急センターで出会った解離性障害のPさんの話をまとめる。
Pさんとかかわる過程を通して、私は救われた。

Pさんと出会ったころ、私は精神看護専門看護師として、高度救命救急センターにスタッフナースとして所属していた。高度救命救急センターに精神科身体合併症病床をつくるために配属され、怒涛の日々が続くなか、鮮明に覚えている人である。

Pさんは理学療法士として病院勤務をしていた。ある日、意識消失のため高度救命救急センターへ搬送された。救急外来で救命措置がとられたが、意識レベルの改善がなく救急病棟に入院となった。4日間の入院期間のうち2日間を担当した。
初めて出会ったときは、意識レベルGCS,E1V1M1、JCS3桁、バイタルサインズ異常なし、徒手筋力テスト0~1だった。これは声かけをしても返答はおろか、反応もない状態である。命の危険はないが自発的な活動がないため、点滴、尿道カテーテルがそれぞれ挿入され、モニタリングをしていた。

どんなきっかけでPさんが話をしてくれるようになったかは、記憶が定かではない。また、私がPさんのことをいつ解離性障害だと把握したのかもよく覚えていない。
ただ、2日間、意識レベルの低いPさんとたくさん話をしたような気がする。救急病棟なので身体的に介入することは多く、介入時にひたすら話しかけ、さらにただ話す時間を数分つくったことが影響しているのかもしれない。

解離とは、本来一つにまとまっているはずの、記憶や意識、知覚やアイデンティティ(自我同一性)をまとめる能力が一時的に失われた状態である。特有の症状には、「混迷」「健忘」「遁走」「離人症」「多重人格(同一性障害)」がある。症状の発現様式、重症度、持続期間はさまざまで、一般的に現れることもある(正常解離)。こうした症状が深刻で、日常の生活に深刻な障害をきたす場合を解離性障害と呼ぶ。
衝撃的な出来事、事故、災害などの体験や目撃などの極度のストレスが引き金となって突発的に発症する、幼少期の虐待や、あまりにも耐えがたい心理的葛藤から、相容れない情報や受け入れがたい感情を意識的な思考から切り離さざるをえなくなって発症する、など、心理的な原因が想定されている。
(都立松沢病院ホームページより)

Pさんが乖離せざるを得なかったこころの中に抱えているたくさんの想い。この先に対するPさんの希望。それでも話せない、伝えられないPさんの感情や葛藤。なんとか私に伝えようとしてくれるPさん。ちょっと笑うとステキな表情をする。
その周りを囲む、Pさんが表出できないことを代わって表出していると思っている両親。解離性障害だから高度救命救急センターではこれ以上見れないと伝え、退院か入院継続かの決定を迫る精神科医。そのそばで成り行きを見ている総合診療科医と内科医。そのやり取りを聞きながら泣き「もうやだ」とぽつりと話すPさん。そしてPさんの隣にいるだけの私。

なんともやりきれない(私が)なかで、ご家族が受け入れ、退院となった。
車椅子で退院していくPさんを見送ることはできなかったが、七夕の短冊を書いていってくださった。

とてもきれいな字で
「2日間担当だった看護師さん 話を聞いてくれてありがとう」
と書かれていた。 

高度救命救急センターでスタッフナースとして勤務するなかで、精神看護専門看護師としてのアイデンティティが崩壊しつつあった私は本当に救われた。
ほとんど記憶がない時期に鮮明に覚えているということは、こころの底から救われていたのだと思う。Pさんの言葉が私にとって魔法の言葉となった。

そしてあらためて感じている。

やはり看護師はどちらかではなく、心も身体も両方看る必要があるのだ。

身体をメインで看る看護師が、少しでも対象者の心を想像することができるように。
心をメインで看る看護師が、少しでも身体をフォーカスして看ることができるように。
私ができることをやり続けたいと思っている。

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