コロナで起きたマイ・イノベーション

2021.04.01
椎野 由佳
  • 2021/04
  • 看護師:椎野 由佳

"佐居さん!高畠です。覚えていますか?"

昨年末、私は聖路加国際病院ICUで一緒に働いた、今は聖路加国際大学看護学部で准教授としてキャリアを積まれている佐居先生にFacebookの友達申請をしました。高畠は私の旧姓です。20年くらいの時が経っていたのに、突然の不躾な申し出に快く返事をくださって、私は近況を伝えました。

"私は現在心不全です。未修復の先天性心疾患があり、症状もあり8年ぶりに受診して診断されました。今、先天性心疾患の生涯医療について何かコミットできないかと考えていて、連絡を取らせていただいた次第です。"

お返事をいただき、この「今月の看護師」への投稿を提案していただいたのです。

 心不全だとわかったのは、2019年の夏でした。その半年前にトレッキングコースを歩いていて、ひどく息切れがして元に戻るのに2時間くらい苦しくなる事がありました。めまいや身体のしんどさは日常的にあって、体重の増加があっても心疾患と結びつけて考える事はこれまでになく、更年期障害かと考えていました。

 先天性心室中隔欠損と1歳未満で診断され、手術を勧められましたが、先延ばしにし、中学生で心臓カテーテル検査を受け、手術はせずに大丈夫と診断されていました。最近は、二度目の出産後の検査で変わりないという事で、自己判断で定期受診はやめていました。心不全というのは、ずっと先の80代くらいの話だと思っていたので、大きな大きな衝撃でした。

SNSで同じ病気の人の事を知る事ができるんじゃないかとある日気付きました。初めてTwitterやFacebookにアカウントを作り、少しずつ情報に触れるようになりました。

 2020年、リモートワークの流れは、病院勤務できない私でも、ウェブで学会や研修会に参加できるという"ブレークスルー"をもたらしてくれました。そしてSNSでは、お会いした事のない先天性心疾患の方や医療者の方と交流できるようになっていきました。それは海外にも広がりました。アメリカ成人先天性心疾患協会のHPには、患者さんが寄稿しているブログが多くあり、毎週ウェビナーで最新の研究を講義していて、2009年からのアーカイブもありました。

 国内の日本成人先天性心疾患学会は、一般聴講できるウェビナーが無料開催され、第1線でご活躍される医師や看護師の講義を聴講できました。日本小児循環器学会教育セミナーで学んだ心臓の発生学は、発生の過程から理解すると先天性心疾患がとても理解しやすいと教えて頂きました。

 先天性心疾患の方との交流は、味わった事のない共感が経験できました。

 物心ついた時から、ずっと病気から自由になる事はない。外来診察、検査、入院、手術という医療は、その体験そのものがPTSDの原因になっている。自分の命は親や医療者の強い思いで生かされたものだと感謝しながら、重荷にもなる。自死を考えても命を粗末にすることさえ自分で許せない。同年代が普通にできる事から次第に乖離していく人生。再手術、ペースメーカー、ICD埋め込みなどの治療を受ける意思決定は、自分の人生に自分ではどうにもできない事があると思い知らされる事と向き合わないといけない。女性の妊娠出産は大きな課題で、出産できても子育てする体力が次第になくなる不安と向き合うし、男性は家族を養ったり家を買うなどのライフプランを立てるのが非常に難しい。実際多くの生命保険には入れず、住宅ローンは組めない。医学がなかったら、生きられなかった身体だけど、生まれた時からその病気の世界で生きている事に、大人になっていくどこかで気づかされて、対象のない怒りのようなものを常に抱えていく葛藤、それは誰にもぶつけられないで生きていく。日々成長する乳児から思春期の間の治療優先の生活は、同年代が手に入れられている事を、闘病しながら獲得するという非常に難しい日常を強いる。病気を知らされ、長くは生きられないかもしれないという大きな不安、悲しみは、誰からも尋ねられないまま、その思いを言語化する事なく、一人で胸にしまい込んでしまう。

 1年くらい毎日、患者であり看護師である自分と向き合ってきて、今の患者としての私が、かつての看護師としての私と見つめ合った時、その思いはすれ違い見つめ合えないなとわかりました。なぜ見つめ合えないのか?という問いに答えを見つけたいと願うようになりました。

 今春、大学院受験と大きな目標を立ててスタートします。こんなに全く自信が持てないのに、前に進みたいとする強い思いは自分でも驚いています。今日も先天性心疾患で生まれてきた人がいる、その人に生涯医療として求められる支援が届くようになって欲しい、そして看護師として患者と見つめ合えるために、何がいるのかをわかりたいし身につけたい。それが今の私の生きる力であり、人生の有難い巡り合わせだと思います。

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