目の前にいる患者さんの日頃の姿を想像して

2021.05.01
西本 葵
  • 2021/05
  • 看護師:西本 葵

看護師になって10年以上経ちましたが、1年目でICUに配属されてからこれまで、集中治療領域と言われる場所で、0歳から100歳までの患者さんの看護に携わってきました。大学を卒業する頃にその領域を希望した理由はいくつかありましたが、一番は、もしも目の前で人が倒れた時に少しでも助けになるような技術をいち早く身につけたいということでした。今思えば、救急医療系のテレビドラマの影響が大きかったのでしょう。

今日は、ICUで働く上で大切にしていたことについて書いてみたいと思います。私は、患者さんの"日頃の姿を想像して看護すること"をいつも心がけていました。この患者さんは何の仕事をしていて、奥さんや子供達にはどんな表情を見せていたのだろう、この患者さんの趣味は何で、どんな生活をしているのだろう。声を出すことも、目を開けることもできない患者さんや、話すことはできても混乱をきたして普段と違う様子で病気と闘っている患者さんを目の前にして、想像力をフル回転し、考えていました。ICUの様子は、医療従事者やそこに入室したことのある一部の患者さんが知っているのみで、なかなか想像しにくい場所であったかもしれませんが、COVID-19の流行によってECMOや人工呼吸器についてメディアで紹介されることが増えました。あのような機械に繋がれて、体にはたくさんの管が挿入され、大量の点滴により顔や体はむくみ、今までの日常とはかけ離れた姿で頑張る患者さんがそこにはいます。そのような場での看護であるからこそ、日頃の姿を想像することはより一層に大切だと思います。もちろん、自分で想像するだけでは足りないので、家族とお話しをして教えて頂くこともありました。

ある日、救急で運ばれてきた20歳を過ぎたばかりの若い女性がECMOに繋がれ、意識はなく眠った状態でした。華奢な彼女の体にはたくさんの点滴が入り、日頃の姿を想像するには難しいほどに全身がむくんでいました。鼻や口にも管が入っている状態で、顔の大半には管を固定するためのテープが貼られていました。ただ、肌は白く透き通るように綺麗で眉毛も整えられている、指先の爪まで手入れがなされていたことから、普段から美容に気を配っている女性らしい方であると想像しました。その女性のお母さんが面会に訪れた際、ショックから娘さんの傍に行くことすらできなかったのですが、徐々に関わっていく中で、最近撮った娘の写真を見ないかと提案して下さいました。娘さんは美容部員としてデパートで活躍し始めたばかりだと、笑顔の写真を見せて頂いた瞬間、ベッドサイドで涙が止まらなかったのを覚えています。それを聞いてすぐに何か特別なことができるかと言われればそうではないのですが、目の前にいる女性は病気で苦しんでいるECMOに繋がれた患者さんという以前に、一人の美しい美容部員であり、このお母さんの娘であるということを心から感じたのでした。

患者さんの日頃の姿を知ることは、元気になって退院を目指す過程で、その支援をするために特に必要なことです。ICUにおいても、口や体に入っていた管を抜いて意識が元に戻った患者さん、手術直後にリハビリを頑張る患者さんが、無事に社会復帰できるよう考慮して支援をするので、その際にも大切になる情報です。しかし、それだけでなく、超急性期と言われる救命治療の真っ只中であっても、それは看護をする上で重要なことだと考えます。日頃の姿とはかけ離れた状態でそこに存在し、自分の思いを伝えることもできないからこそ、何を思ってどう感じて今ここにいるのか、どのように生きている人なのかを想像する。目の前にいる患者さんに声をかけたり体に触れたり、日常の看護ケアをするために、私はそれを大切にしてきました。今春からは教員になりますが、これからも看護において大切なことを考え続けていきたいと思います。

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