意識のない患者さんの気持ちを知る方法

2017.05.30

どうしたら患者さんの思いを知ることができるのか

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あなたは、言語を理解出来ず、周囲の状況を認識することも出来ず、何も考えたりすることが出来ない意識が全くないような人が、どのようなことをすれば心地く感じてもらえるか想像できますか?
ある看護師は、脳腫瘍(脳の疾病のひとつで、頭蓋内組織に発生する新生物)の再発によって徐々に意識レベルが低下していく患者さんと関わったことをきっかけに「どうしたら患者さんの思いを知ることが出来るのか」を考えるようになりました。今まで、冗談も言い合えるような関係だったのに、その患者さんが周囲の環境を認識出来なくなるにつれて、自分の患者さんとのこれからの関わりやケアに不安を抱いたと言います。
これまで、意識のない患者さんをケアする看護師や家族は日々の関わりの中で患者の体全体を通して思いをくみ取り、対話をしながら看護を行うことを良しとする研究が主流でした。しかし、意識のない患者さん本人の刺激の受け取り方については解明していないため、それらのほとんどはケアの内容に反映されていませんでした。
健常者に対する研究の結果から、自律神経系(意志とは無関係に,内臓・血管・腺などの機能を自動的に調節する神経系。交感神経と副交感神経から成り,多くは一つの器官に対し互いに拮抗(きつこう)的に作用している。)の活動によって何らかの反応を得られるのではないか、と考えられていました。
しかし、意識のない患者さんに適応させるのは限界があるので、まずは意識のない患者さんの自律神経活動の実態について明らかにする必要があると考え、その看護師が決断し看護学研究を行いました。

対象となる患者さん4名を2回ずつベッドサイドで観察しました。2回行われた理由は、信頼できるデータを得るためです。 今回はその中でも自律神経活動と24時間の日内変動のリズムに大きな変化の見られた場面の詳細を検討しました。

その方法として、まず自律神経系の活動をとらえるために、身体への負荷が少なく簡易的な方法である「心拍変動解析」という心電図のR-R間隔(下の図を参照)の変動から解析する方法を選択し家族の面会等の記録をしました。

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<心電図 R-R間隔>
心拍一拍ごとの変動を測定することにより心臓の自律神経緊張の指標となるのです。その中でも、HFとLFという指標に注目しました。両方とも交感神経と副交感神経の活動のバランスを表す指標です。HFは高周波(Hi Frequency)、LFは低周波(Low Frequency)の略語で、前者は副交感神経活動を反映し、後者は交感神経と副交感神経の両方を反映してると言われています。
このことから、HFの上昇やLFよりも優位になっている場面に注目しました。そして、そこでどのような刺激が行われていたかを看護ケアの記録と照らし合わせながら把握し検討しました。
ここで、一般的に交感神経活動はLF/HFで示されていることが多いですが、LFの動きとLF/HFの動きを比較すると同じような動きであったため、HFを副交感神経活動の、LFを交感神経活動を含む指標として用いました。交感神経が活発になることで人は興奮しますが、副交感神経が活発になることで、人はリラックスすることができます。
さらに、「アクチグラフ」(下の図を参照)という活動量と休息の状態を測定することができる指標を用いて、患者さんの表情や動きの変化を読み取り、看護師の介入とそれに対する反応を記録しました。事例ごとに自律神経活動の変化の分析を行い、その中から共通性と差異を検討していきました。

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<アクチグラフー活動量と休息の状態を測定することができる指標ー(武田薬品工業株式会社 健康サイトHPより)>
先に述べた自律神経活動の変化と併せて、アクチグラフによる活動と休息期を比較しました。
その結果、まず自律神経活動からみた24時間の変化について、1人の患者さんからは規則性が確認できましたが、その他の事例では規則性は確認できませんでした。
そして、規則性が確認できた患者さんと確認できなかった患者さんのデータを、さらに細かく分析し看護ケアと照らし合わせて検討したところ、寝る前に行ったケアや、ご本人の好きなラジオを聴かせたことで、自律神経系の内の副交感神経(交感神経と対になっている神経)が活発になるという変化が確認されました。

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<アクチグラフデータ解析(株式会社疲労科学研究所HPより)>
ちなみに、自律神経活動とアクチグラフの比較の結果では、意識のない患者さんのように自動運動が極端に少ない患者さんにおいて検討をする必要があるものの、活動期と休息期の判定を行うことが可能でした。
このように、意識のない患者さんでは、それを主観的な指標から捉えることができないため、客観的な指標の検討が必要だと考えられます。

以上のことから、同じ意識のない患者さんでも、24時間の中で自律神経活動にリズムがある方とない方がいるということが分かりました。 リズムが見られた方からは、就寝前のケアや聴きなれた心地良い音の提供によって患者さんが心地よさを感じる可能性(HFの上昇)が示唆されたことから、就寝前やその人の好きだったことを用いた刺激を提供することが心地よさを生み出すということが分かりました。
リズムが見られなかった方に対しては、生活リズムをつけていくことも看護のケアの1つの役割にもなりうると考えられました。
脳機能に障害が起きて意識がなくなってしまった方に対しても、その人が心地よいと感じてもらえるようなケアが行われる医療の実現は不可能ではないようです。

いかがでしたか?
このように、意識のない患者さんの中にも生体リズムが保たれている人がいたことから、患者さんの体調を保つ上ではそのリズムを崩さないことが大切なのではないか、とも考えられます。

看護の知識

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