「不妊」に代わる言葉

實﨑 美奈
  • 2008/09
  • 助産師:實﨑 美奈

生殖医療の臨床現場を離れて数年たったある日、私は不妊に悩む方々の調査のために古巣であるクリニックを訪ね、調査もそこそこに、私の在職中から通院されていたAさんと話し込んでいた。そんな中、Aさんがつぶやいた。「『不妊』って言葉、どうにかならないんですかね・・。」私は、産婦人科領域では良く使われている言葉を思い出し、「『挙児希望』という言葉はありますけどね・・。」と言ったが、それもAさんにはピンとこないようだった。それ以来、私も何となくもやもやとしたものを感じていた「不妊」という言葉に代わるものについて、折に触れて考えるようになった。

一般に、妊娠の成立を見ない状態を「不妊」といい、その治療は「不妊治療」と呼ばれている。私にはどうも、この「不」という語が「腑」に落ちない。治療により妊婦となった方々が、不妊外来を"卒業"して産科外来や分娩施設へ早い時期に紹介されていくことを考えると、「不妊治療」というネーミングは適切なのかもしれない。しかし、「不妊治療」を受ける方々が本当に望んでいるのは、妊娠することなのではなく、子どもをもつことなのである。もちろん、治療を受ければ誰もが子どもを授かるというわけではない。そのことにも十分配慮しながら、できれば妊娠・出産して子どもをもつことを見通した治療のネーミングは、「不」というネガティブな語を含まない、もっと前向きで温かいものであってもらいたい。

この領域に携わる医療者の誰もが「不」が「腑」に落ちない思いでいるのか、かつては産婦人科診療の一部で「不妊外来」と呼ばれていたものが、近年では生殖医療センター、挙児希望外来、リプロセンターなどに変わってきており、日本不妊学会、日本不妊看護学会も、それぞれ日本生殖医学会、日本生殖看護学会と名称を変更している。そういえば、生殖医療という言葉も比較的新しいものだ。先日、所用でいくつかの生殖医療を実施している施設を訪ねた際に、ある施設でいただいた患者さま向けのDVDのタイトルが「望妊治療」であったこと、また別のある施設では不妊外来を「ジョイファミリー」と称していたことに、私はとても温かいものを感じた。

私はまだ、あの日のAさんのつぶやきに対する答えを見つけ出せずにいる。さらには、協力してくださった皆さまには本当に申し訳ないことに、その時に行っていた調査もまだ完結しておらず、未だにひきだしから出したり入れたりをくり返しているような状況である。まずはそこから始めよう。日々、このテーマに真摯に向き合っていれば、いつかこのもやもやが晴れると信じよう。子どもがいる人もいない人も、治療を受ける人も受けない人も、みんなが同じくらい幸せな毎日を過ごしておられることを祈りつつ・・・。

看護コミュニティ

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