「変わる」に立ち会うこと

三浦 友理子
  • 2013/08
  • 看護師:三浦 友理子

看護師をしていると、ひとの「変わる」に立ち会うことがあります。患者さん自身が、生活を、最終的には人生を豊かなものにするために起こす、健康にベクトルが向いた変革です。体を拭いたり、包帯交換をしたりというような直接的なかかわりではありませんが、患者さんの「変わる」に立ち会えたときこの仕事ができる充実感を覚えます。

Aさんは狭心症を患った若い方でした。狭心症は、心臓を栄養する血管が狭くなり、心筋に十分な酸素が行き渡らないため、心臓が十分に機能しなくなる疾患です。胸痛や息苦しさを伴い、生命の危機を感じるような激しい症状を呈する重大な疾患であるのですが、カテーテルを用いた治療の進歩により、比較的短い入院で改善がみられるケースが増えています。一方で、治療後は再発を予防する生活習慣に変えていく必要があります。看護師は、患者さんが運動・食事・薬の服用・禁煙など、再発予防に望ましい生活習慣について知識を得てそれを実行できるように、ご本人やご家族に対して支援を試みます。しかし、生活習慣を変えるということは、そう簡単なものではありません。行きつ戻りつ、ある程度時間が必要です。

Aさんは毎日仕事が深夜にもおよび、家には寝に帰るだけという生活で大きなストレスを抱えておられました。食事も不規則で油っこい食べ物が大好き、職場で喫煙する同僚が多くご本人も喫煙をしていました。血管が狭くなるお手本のような生活習慣をお持ちの方だなと思ったことを覚えています。はじめての入院の時、習慣を変えていく必要があるお話をしたところ、「あー、まあ長生きしたくないし。これで(カテーテルを挿入した痕を指して)治っちゃうから。」とまったく聞く耳を持たない様子でした。このようなとき、私たちはどうにか関心を抱くその方のツボを探そうと試みます。それは取り組めそうな部分を見極めたり、健康でいるということに強いモチベーションを抱けるその人にとっての価値を探したりといったことです。しかし、興味を示す部分が見つからず、取りつく島がない様子でした。

同じ症状での2回目の入院の時、前回より看護師の言葉に耳を傾け、仕事に対する思いを話してくれるようになりました。前回の退院から仕事に復帰したが、思い切り仕事に打ち込もうとするときに身体がついてこないという感覚をもつとのことでした。競争の激しい業界だそうで、休んではいられないのに、何回もの入院も困ると。病院での治療だけでは仕事に十全に復帰することにつながらない、再発をおこさない生活習慣に立て直す必要があることをうっすら感じている状況がありました。壮年期で会社でも中心的な役割を持つ方でしたので、生活習慣の改善も頑張るポイントを絞って計画しました。退院後、ダイエットと禁煙に成功し、検査以外では病院にかかることもなく過ごしていらっしゃいます。

Aさんにとって、「変わる」のきっかけとなったものは、退院後仕事をするのに身体がついてこないという戸惑いでした。また、Aさんが価値を持っているものは、十全な仕事をする自分であり、それをもって家族を支えることでした。個人の価値のような立ち入ったことを伺うには、それなりの関係性が必要です。看護師はわりあいそれが許されている職業なのでしょうが、信頼関係を確実に築くことの大切さを改めて実感した出来事でした。そして、1回のアプローチであきらめず、押したり引いたりしながら継続して関わること、信じて待つことの効用を学びました。

これからも、患者さんの豊かな「変わる」に立ち会えるよう経験を積んでいきたいと思います。

看護コミュニティ

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