「きぼうときずな」健康相談ボランティアに参加して

2016.03.01
山橋 直子
  • 2016/03
  • 看護師:山橋 直子

私は昨年、東日本大震災被災住民支援プロジェクト「きぼうときずな」に看護師のボランティアとして参加しました。このプロジェクトはNPO日本臨床研究支援ユニットが聖路加国際大学と協力し活動を行っているものです。この時のボランティアは、今も避難生活を続けている福島原発近くのA町の方へ健康診断結果について説明し健康相談を行うものでした。私が参加しようと思った理由は、震災被害という大きな社会的問題を自分の身近な現象として感じたかったからです。また、普段私は訪問看護を行っていますが、日々、療養者さんやご家族の健康相談を行う機会も多いため、自分の経験を活かして少しでも役にたてればと思いました。私は避難している場所に行き、普段は避難している方々が団らんの場所としているサロンで活動を行いました。ここで出会ったご夫婦の話をしたいと思います。

終了間際に静かに入ってくるご夫婦がいました。各々席につき、奥様はうつむきながら他の看護師と話しをしていました。後で聞いた話ですが、奥様は震災の影響で引きこもりになってしまい、この日も行くのをやめようかと悩みながらも頑張って来られたそうです。私はご主人と話しましたが、外反拇指で困っていることなど表情を変えることなく静かに話をされました。サロンの壁一面には桜の写真が飾ってあり、じっと見つめていたので、私は「A町の桜ですね」と声をかけたところ「もう帰るのは無理だから...。もう帰れないからこっちに家を建てたけど...」と涙を流されました。私はその涙を見てA町に帰れない辛さがこみあげてきたのだと思い「お辛いですね」と声をかけました。沈黙のあとご主人はA町での話しを聞かせてくれました。

そしてあれから1年後、私は再び健康相談のボランティアとして同じサロンに行きました。「外反拇指で足が痛くて歩けないんです」と時々笑みを浮かべながら話す男性。あれっこの話!と思って顔をよく見てみるとあの時のご主人なのです。周りを見渡すと奥様も来ていました。奥様はサロンのスタッフさんと楽しそうに話し笑顔で「おとうさーん」と呼んでいます。1年前にうなだれていたご夫婦の姿はありませんでした。私は驚きました。月日が気持ちを癒してくれたのだろうと感じました。しかし、ご主人の話しでは今も奥様は外出を拒むことがあるそうです。笑顔はあっても心はまだまだ修復されていないのだとわかりました。

ボランティアを通して多くの方とお話ししました。このご夫婦だけでなく、A町に自宅はあるものの帰れない現状を何とか受け止め避難先に家を建てた方は他にもいらっしゃいました。また、ストレスからくる動悸を抱えている方、仮設住宅に来てから活動量が低下し肥満になってしまった方など様々な健康問題を抱えています。心の問題について保健師さんは「時間が解決していくこともあるが反対に辛さが増していく人もいる」と話しています。訪問看護では定期訪問し継続的な関わりが出来ますが、今回のようなボランティアでは1年に1回の関わりとなってしまいます。住民の方が日々の生活で困ったときに周囲に話せる人がいるのか、いない場合はどこに相談に行ったら良いのかなどの情報提供も必要だと感じました。A町の方が健康に暮らせるようにこれからもボランティア活動に参加していきたいと思います。日頃、努力されていることを認め労い、また普段表出できない思いがあれば語れる機会にもしたいと思っています。

看護コミュニティ

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