寄り添う看護

本城由美
  • 2017/01
  • 看護師 :本城由美

看護職になり、四半世紀が過ぎた。けれど、新人看護師時代の患者さんとの日々は、今でも鮮明に心に残っている。おそらく、一生忘れることはないだろう。

 看護師になって1年目、それはもうめまぐるしい日々であった。できないことは多く、日々つらく、35床を2人で担当する夜勤帯勤務は決死の思いで臨んでいた。当時、国家試験の合格発表は5月であったが、真剣に「受かっていなければ、明日から病棟に行かなくてすむ」と思ったほどであった。

 そのような日々の中、私は、ある患者さん、木本さん(仮名)を初めてプライマリーナースとして担当することになった。木本さんは40歳代後半の女性で、両乳房をガンのために切除後ガンが骨に転移し、ガンによる痛みの調整のため入院していた。初めて木本さんに会ったとき、彼女はカールした髪を左右になびかせ、爪は入念にネイルされていて、とてもキレイな身だしなみをされていた。彼女の第一印象は、「とてもきれいにされている方だなぁ」であった。けれど、彼女は、両腋窩のリンパ節を切除していたため、両上肢は非常にむくんでおり、圧迫のために包帯を巻いていた。新人看護師の私は、木本さんの清潔のためのケアを初めて行い、その事実を知ったとき、いささかの衝撃を受けた。衣服で隠れたところに、彼女の苦悩があるように感じた。

私は、木本さんのプライマリーナースとして、日々、彼女を担当する中で、彼女にとって必要な看護ケアはなんなのだろうか、と新人なりに一生懸命に考えた。そして、彼女が今一番望むこと、身だしなみのキレイさを整えることで、彼女らしさを保てるようにケアをしようという結論に至った。木本さんは、転移したガンの進行にともない、徐々に日常生活動作が低下し、歩行できなくなり、ベッド上での生活となっていった。そのような入院生活でも、彼女の身だしなみが少しでも整うように、看護ケアを計画した。全身清拭、手浴、洗髪など、清潔を保持するためのケアを計画的に実施することを心掛けた。上肢の圧迫のための包帯は、むくみが減少するように丁寧に巻いた。全身清拭においては、できるだけ、木本さんに安楽なケアが提供できるように、気持ちよさをより感じてもらえるように、石鹸がついた濡れたタオルで身体を拭いて汚れをとり、温かいタオルで石鹸分を取り除き、再度、温かいタオルを広くあてて身体を拭いた。汗のかきやすいところ、解剖学的に汗腺が集中しているところは、より丁寧に清拭した。体位を変えることによって痛みが発生する部位は事前に把握し、痛みが出ないように身体の向きを換え支えた。手浴においては、できるだけ、彼女自身ができるように、お湯と洗面器を準備し、彼女が愛用していた保湿クリームを塗った。私のケアについて、木本さんは、笑顔でお礼をいってくださった。私はその笑顔が嬉しくて、日々ケアにあたっていたが、木本さんのガンは徐々に進行し、数か月後、この世での最後の日を迎えられた。彼女の命がつきるとき、私は夜勤明けであった。そのとき、日勤帯で木本さんの担当だった先輩ナースが、亡くなった彼女に洗髪をしていた。私は、死後の処置として木本さんに洗髪をしてくれた先輩ナースに、心の中でお礼を言った。

あの日から、今年で25年目となる。縁あって、看護教育に携わるようになり、その年月は臨床経験を優に超えた。いつごろからだろうか、「患者に寄り添う看護を」というフレーズをよく耳にするようになった。そのたびに、私のあのときの看護は木本さんに寄り添っていただろうか、と自問自答する。木本さんは、笑顔でお礼をいってくれたけれど、それは、髪を振り乱して必死にケアにあたっていた新人看護師の私への気遣いではなかっただろうか。そのことで無理を強いていたことはないだろうか、と。木本さんにとってのよりよいケアについて、より客観的に考える術をとるべきであったのではないかと。

ただ、今でも、確信をもって言えることがある。それは、患者の立場にたって、看護ケアを考えることの意義である。患者の立場にたって看護ケアを実践する、その当たり前とも捉えられることを念頭におき、今、看護教育にあたっている。看護技術の演習を重ね、患者自身の立場にたって、安全に安楽に演習が実施できることを目標とする。まず、学内で実施できてこそ、臨床の場での実践が可能と考える。丁寧に演習を積み重ねること、その中で、患者の立場に立ち看護することを身に着けていく、そして、臨床での実習体験が学びの動機づけとなっていく。学内での演習のあり方については、ときに、そのやり方に対して、「効率が悪い」「厳しすぎる」「どうせ臨床に出たら忘れている」「必要な看護技術は現場で教えればいい」という声を聞く。これらの言葉に真摯に向き合いながら、よりよい看護教育について思考錯誤する日々である。

看護コミュニティ

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