怪物はささやく

2014.08.01
怪物はささやく

原案:シヴォーン・ダウド
著:パトリック・ネス
訳:池田真紀子
出版社名:あすなろ書房
発行年日:2011年11月
価格:\1,600(税別)
ISBN:978-4-7515-2222-6

がんという病気にかかってしまった。死や治療に対する不安と共に考えさせられる大きな問題が家族への告知でしょう。
早期発見や治療の進歩によって、治癒率は格段に上がってきていますが、手術や放射線・抗癌剤といった治療には、本人だけでなく家族にも大きな負担がかかります。
特に乳がんは30代後半に増加しており、小さい子どもの母親ということも珍しくありません。自分の病気を子どもに伝えるか否か。それは、患者さん自身に大きな苦しみの一つとなっているようです。

「心理的負担をかけたくない」と伝えずにいても、態度・行動の変化、そして副作用による以前と違う生活状態は、子どもが逆に不審や不満を持つこともあるでしょう。

本書の主人公13歳の少年コナーは、重い病気に苦しむ母親と二人暮らしです。学校では家庭の事情が知られてしまい、腫れ物に触るような扱いやいじめまで受けています。
ある夜、少年とその母親の住む家に怪物が現れます。
「わたしが三つの物語を語り終えたら、 四つめの物語をわたしに話すのだ」
コナーが語る真実の物語。それは彼の本当の気持ち、二つの矛盾する思いでした。
生きていてほしい。でも、明らかな死は近づいてきている。いつ区切りがつくのかわからない悲しい思いを抱え続けるとなれば、早く死んでほしいとさえ願ってしまう。
そんな考えを抱くことで良心がとがめ、抱えきれなくなってしまった少年の逃げ場所が怪物の存在だったのです。

一緒に暮らす子どもには、病を隠し通せるものではないのかも知れません。
「何回も椅子に座るようになった」
「最近お風呂に、一緒に入ってくれなくなった」
小さな変化から、子どもは親に何かが起こっていることを感じ取ります。
コナー少年のように、一人で抱え込んでしまうこともあるでしょう。

現在、そうした病気の親を持つ子どもをサポートする環境が整い始めています。
病気の治療ついてと共に、家族のケアについても主治医にご相談してみてください。

残念ながら亡くなってしまった原案者、シヴォーン・ダウドさんの遺作を基に、パトリックス・ネスさんが本書を書き上げたそうです。
ダウドさんの残した願いは、子どもを一人きりで闇の中に取り残さないで欲しい、ということだったのではないでしょうか。

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