よく、精神科看護は特殊だといわれます。私はその言葉の中に、こころの問題という目に見えないものを相手にしなくてはならないから難しいという好意的な視点と、もうひとつ、精神科の病気にだけはなりたくない、そういう存在の人にも触れたくないというあまり好意的でない視点の両方を感じます。
「こころの問題」は自分にも関係あるけれど、「精神科の病気」は関係ないという意見を聞くことがあります。私には、それらはつながった線の上にあると思えます。落ち込んだり、たまに眠れなくなったり、周りの人からどうも良くない噂を立てられていると感じたり、自分なんか生きていてもどうしようもないと思ったり。このような状態は一時的に心が弱った状態といえます。このようなときには、十分な休息、家族や友人からの暖かいひとことによって持ち直すことができます。しかし、それが1週間、1ヶ月、3ヶ月、半年を過ぎても改善せず、社会で持っている役割を果たすことができなくなってきたらどうでしょうか。周囲も心配してさまざまなアドバイスをしてくれるのだけど、その助言を聞くのも苦しい・・・・。こうなってくると休息や自力での回復は難しく、薬物や専門家による助言を受ける必要があります。
でもこれは他の病気や怪我でも同じではないでしょうか。自力で手当てできる場合はそうするし、程度が重くなったら専門家の助けを借りる。それですっきりと回復する場合もあるし、慢性の経過に移行する場合もあります。そのときは糖尿病などの疾患と同じように長い経過を上手に生活するための術を身につけてゆくことになります。決して「精神科の病気」を得たからといって特別な人間に変わってしまうわけではないのです。
そうでした。精神科看護のお話でした。私たちは、こころの状態が元気なときも、病気を得て長い経過をたどっている間も、その人のあり方を見守り、支える仕事をしていると思っています。病気があってもなくても、楽しそうで生き生きとした人たちの顔を見るのが好きです。落ち込んでいても、譲れないものを守っている人も好きです。精神科看護は人のありようをこころの健康という観点から見守り続ける仕事だと考えています。
●研究ページ
・健康資源コンテンツデジタル化とe-learning開発
・こころのケア