障害をもった子どもと家族と共に

2006.04.20
渡辺 慶子
  • 2006/04
  • 済生会横浜市東部病院準備室
  • 小児看護専門看護師:渡辺 慶子

私が障害児看護に携わるようになったきっかけは、学部の学生の頃にダウン症の女の子とそのお父さんとの出会いからです。今から思うと女の子は、小学校高学年の年齢ぐらいだったと思うのですが、簡単な会話が成り立つ程度の発達の遅れがありました。食事を自立して摂る事はできましたが、ナイフを上手く使うことができず、こぼしたり口の周りを汚したりしていました。ふとお父さんを見ると、お父さんの表情は優しさに満ちていました。楽しそうに笑っている女の子が愛おしくてたまらないお父さんの笑顔でした。女の子は私に興味をもってくれて、テーブルに着く時も、歩く時もそばを離れませんでした。私がその時感じた幸福感は何とも表現のしようのない温かいものだったことを、15年以上も前になる出来事ですが、今でも覚えています。そして、障害をもった子どもと家族の支援ができたらいいな、と漠然と思うようになっていきました。

 障害をもった子どもと家族の支援に携わるようになって、私がいつも思うことは、「支えられているのは、支援をしたいと言っている私の方だな」ということです。障害児の療育施設で看護師として多くの子どもと家族に出会いました。病棟・外来・訪問看護と様々な場面で出会った子どもとお母さんやお父さんから、たくさんのパワーをもらっているような気がします。言葉の表現はなくても筋緊張を使って体で気持ちを伝えてくる子どもや呼吸器を装着しながら養護学校に通学する子ども、呼吸が苦しい子どもの「ごほっ」と一つ咳をしただけでも夜中に起きて吸引するお母さん、お仕事の合間をぬって子どもの外来受診に来院するお父さん、貧血で倒れそうなのに子どもは預けないで家庭で介護をしているお母さん、夜勤明けで寝不足な目をしていても子どもの入浴介護を手伝ってくれるお父さん・・・挙げたらキリがないくらい一生懸命なお父さん・お母さんの姿に尊敬し、障害をもってつらい体験をしながらも精一杯生きようとする子ども達の姿に感動しています。看護師ができる支援は、生活の中のほんの一部分です。それでも、私がお母さんの話を聞いたり、子どものケアをしたことで、子どもが元気に明るく笑ったり、お母さんの表情が明るくなったのをみると、明日も頑張ろうという思いになります。もちろん、楽しいことだけではありません。突然の悲しい別れが訪れることもあります。「最近は調子が良くて、口から食事もとれるようになってきた」と喜んでいた1歳のひろくんは、冬の初めの朝に天国へ旅たちました。何も力になれなかった私は、無力感を感じていました。でも、お母さんとお父さんは、「ひろくんからたくさんの幸せをもらったし、たくさんの人と出会わせてくれた」と泣きながら話してくれました。ひろくんから教えてもらったことを生かしたいと、お母さんはヘルパーさんの仕事を始めました。ひろくんは重い障害をもっていて、身体的には辛い状態だったかもしれません。お父さんもお母さんも、介護に追われる毎日でした。でも、ひろくんはたくさんの愛情に包まれていたし、お父さんもお母さんもひろくんから愛を感じていました。だから、ひろくんが亡くなった後も、幸せに生きていきたいと思ってくれたのだと思っています。逆に聞こえるかもしれませんが、ひろくんとの別れが今も私が頑張り続けたいと思う出来事であったように思います。

 2004年に日本看護協会による小児看護専門看護師の認定を受けてから、外来や訪問看護の場で活動し、今は、新しい病院を作り上げる準備をしています。世の中の流れは、病院や施設で医療を受ける仕組みから、在宅で医療を受け療養するような仕組みになってきています。障害をもった子どもを取り巻く医療環境も例外ではありません。しかし、高齢者の在宅支援体制が進む一方で、子どもへの支援はまだまだ未整備な部分も多いです。そのような中だからこそ、障害をもった子どもが安心して在宅療養生活が送れるようにするための、後方支援ができる施設や病院の機能が重要ではないかと思っています。在宅に呼吸器をもって帰るような重症な子ども達も増えています。その中のお母さんの一人に「看護師さんに一緒に頑張ろう」と言ってもらえた一言で「一人で頑張らなくていいんだ、と思ったらすごくラクになったのよ」と話してもらったことがあります。そんなお母さんの一言にやっぱり私は支えてもらっているんだという思いになりました。その一方で、障害をもった子どもと家族の生活をより良くしていくために、子どもに関わる様々な職種が連携し、協働していかなければ、支援は行き届かないと感じ、支援をしていきたいとも思っています。そして、その様々な人たちと子どもと家族の架け橋となれるように、今日も新しい病院の構想を練っています。

●関連ページ
・ダウン症の子供たちのカレンダー
・「いのち」について考える本「生まれてくれて、ありがとう。」

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