今から11年前の6月17日、職場の同僚だった方が35歳の若さで天に召されました。彼女は、初めて看護大学の教員になって右も左もわからない私を指導してくださった先輩であり、また面倒見の良いお姉さん的存在でもありました。教員になって初めての夏のある日、彼女は「私、乳がんで手術しなくちゃならないんだよね」と冷静に話されたのを今でも鮮明に覚えています。術後、彼女は抗癌剤治療を続けながらも病気以前と変わることなく精力的に仕事をし、特に学生の実習指導には力を注いでいました。いつも数人の学生が彼女を取り囲んで、楽しそうに時には深刻な面もちで受け持ち患者様のケアについて語っている光景を思い出します。
その後、残念ながら再発・転移がみつかり、彼女は入院療養半分、仕事半分という生活を余儀なくされました。が、そんな状況におかれても、泣き言ひとつ言わず「今度、マスターズ(水泳)の大会にでるんだ」とか「エジプトでラクダにのりたいって言ったらみんなが猛反対してさ、でも私のったんだよね。ラクダが立ち上がる時っておもしろいんだよ。(彼女はその時胸椎と腰椎に数カ所転移があり長期歩行は車椅子を使っている状況であった)」と得意げに話す彼女の姿がとても印象に残っています。そして、何よりも好奇心旺盛で、楽しみをみつけて明るく前向きに生きている姿に、私はいつも敬服していました。
それから11年、現在私は乳がん看護を専門としています。1年前から聖路加看護大学と聖路加国際病院のスタッフで主催している乳がん女性のためのサポートプログラムのメンバーとなり、毎月1回サポートプログラムを開催しています。このサポートプログラムでは、「自分の歩調を大切に」という合言葉をもとに、乳がんをもつ女性が主体的に治療を継続しながら充実した生活を送ることができるように、お互いの体験をわかちあう場や乳がんに関する学習会の場を提供しています。ある時、参加者のある方から「知恵と元気と勇気をわかちあえて、本当に勇気づけられます。いつもこのような場をありがとうございます。」と嬉しい感謝の言葉をいただきました。でも、実は主催者側の私たちも参加者から同じように'知恵と元気と勇気'を毎回いただいているのです。なぜなら、参加者の方々が、お互いに悩みや不安をわかちあったり、日常のなかでのちょっとした工夫や新たな発見を共有したりして、自分たちの力で明るく元気になっていく姿はとても感動的であり、その参加者との交流のなかで私はいつもエネルギーをもらっているからです。
また、参加者から提案されるちょっとした工夫や発見は、実はとても役立つ情報なのです。私はいつも参加者からのちょっとした工夫や発見をすかさず自分の知恵袋に大切にしまい、次に同じように困った方がいらした時に「○○にするといいようですよ。○○を体験された方が話しておりましたよ」とアドバイスをしています。ですので、サポートプログラムの帰り際に参加者の方から「どうもありがとうございました。また、次もよろしくお願いします。」と言葉をかけられると、「そうですか、それは良かったですね。」と言うよりも「(いえいえ、こちらこそ。貴重な体験やお知恵を)どうもありがとうございました。次もお待ちしていますね。」という言葉を思わず発してしまうのです。時には、サポートプログラムに参加して「○○はどうなのでしょうか」というご指摘をいただくこともあり、反省することも少なくありません。これからも、参加者の皆様からの貴重なご意見を大切にして、一人でも多くの方が「参加して良かった」「元気がもらえた」と感じていただけるような'知恵と元気と勇気をわかちあうサポートプログラム'になるよう、鋭意努力して参りたいと思います。
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