私は、がん看護・緩和ケアを専門としています。がん看護専門看護師を志す大きなきっかけとなった、40代男性患者Aさんとの出会いをご紹介したいと思います。
Aさんの病名は大腸がんで、手術を受ける時から私の勤務する病院にかかっていました。肝臓、肺、腹膜にがんが転移し、腸の閉塞を起こして何度か入院治療が必要になっても、「今度も俺は自分の家に帰るから、見ててよ。」と笑顔で話し、大好きなパチンコの話をするのが印象的でした。中心静脈栄養となってからも、Aさんは、リュックに大きな輸液を入れて、近所のパチンコ屋さんに通うことを続けていたのです。Aさんはとても手先が器用で、輸液の管理は全て自分でされていました。病状の進行に伴い、種々の症状が出現し、今まで当たり前のように送ってきた生活がどんどん脅かされるAさんにとって、がんばる原動力となっていたのは、3人の娘さんの存在でした。多くは語られませんでしたが、「今までずっと仕事人間だったからね、少しは娘の成長も見てあげなきゃね。」と、娘さんと過ごす時間を大事にされていることが伝わってきました。
一方で、入院を繰り返すごとに、奥さんの苦悩が増していくのを、スタッフ全員が感じていました。ある日、「最近眠れなくて...」と話され、表情の乏しい奥さんに、私は何と声をかけてよいのか、どう接したらよいのか分からなくなりました。その出来事を同じチームの先輩看護師に話すと、私と同じように奥さんへの対応は今のままでよいのかと悩んでいたこと、さらに、外来で継続してAさんと奥さんをサポートしてくれているがん看護専門看護師に相談しようと考えていたことを話してくれました。
がん看護専門看護師は、私たちの悩みを聞き、私たちのできているケアを保証しながら、Aさん、奥さんの状況を共に整理してくれました。心身ともに疲労困憊状態であった奥さんに対しては、今までずっと一人でがんばってこられたことへの労いの声をかけつつ、まずは夜ゆっくり眠れるようにしましょう、と専門家への橋渡しをしてくれたことを記憶しています。専門看護師に相談したことで問題解決の糸口がみつかり、私たちは、落ち着いて奥さんへのケアもできるようになりました。その後、間もなくAさんは病院で最期を迎えられました。奥さんは涙を流しながら、「これからは子供たちのために、がんばっていきます。」と話され、病院をあとにされました。
根底にある問題を適確に判断し、Aさんや奥さんによりよいケアを導き出したがん看護専門看護師にあこがれ、私はその道を目指す決意をしました。目標に向って研鑽する日々ですが、初心を大切にしながら、一歩ずつ成長していきたいと思っています。