今まで元気だった働き盛りの人が急死したり、健康のためと思って始めたジョギング中に急死するなどの突然死は稀ではありません。現在、日本全国で年間5万人もの方が心臓突然死によって亡くなっています。
もし、あなたの目の前で最愛の家族が急に倒れ、呼吸や心臓が停止してしまったら、その時あなたは何をしてあげられますか?呼びかけて反応がなければ、まず救急車を呼んでください。
でも、東京都内では救急車が到着するまでに平均5~6分かかります。この間、どうしますか?実は、この間、家族による救命処置が行われるかどうかが、患者の生死をわけることになります。
心停止した場合、何もしないとその5分の間に生存率は約10%まで低下してしまうからです。従って、救急車が到着するまでに、家族による適切な救命処置が行われることがとても重要です。
「ドタン」重く鈍い音、母の悲鳴、響き渡るサイレン。それが私の心に刻み込まれたある冬の日の記憶です。私が学生の頃、元気だった祖父が急性心筋梗塞で倒れたのです。その日は、いつものように家族で夕食を囲み、食事を終えた祖父が最初に部屋からでました。
間もなく大きな物音が家中に響き、私たちがトイレに駆けつけた時、祖父は仰向けに倒れ、呼吸もしていなかったのです。私は突然の出来事に何をすればよいのかわからず、ただ茫然としていました。
冷静だった父が119番に通報し、果てしなく長い4分間の後に救急車が到着して、祖父は病院へと搬送されました。心臓カテーテル治療と1ヶ月の入院の後、奇跡的に祖父は回復し、元気に退院しました。
私はそのときの悔しさから、救命救急センターで働くことを志願し、今では心臓突然死患者をはじめとした救命処置を必要とする患者の生存率、さらには救命後の生活の質を向上させることを目的に心肺蘇生法の普及・啓発活動を行っています。その活動の一つを紹介したいと思います。
東京都CCUネットワークという都内62の循環器救急医療病院が加盟する団体が主催し、心臓病患者の家族のために開催する講習会があります。これは、各病院が患者の家族に声をかけ、スタッフを動員して一斉に日本武道館に集まって、みんなで講習会を開くものです。
最近では2008年10月3日、第3回心臓病患者家族へのAED心肺蘇生法全体講習会が、「愛する家族を救うのはあなたです!」をテーマに開催されました。
約400人の受講者と約300人のスタッフが参加し、大規模な講習会となりました。受講者は、心筋梗塞を起こした本人、そしてその家族です。一般市民向けの心肺蘇生は、救急隊が到着するまでひたすらしっかりとした心臓マッサージを行うというもので、人工呼吸を必要としません。
具体的には、呼びかけて反応がなければ、すぐに119に電話して救急車を呼び、近くにAEDがあればとってきてもらいます。強く速く(100回/分)心臓マッサージを行い、AEDがきたら直ちに使用します。
今回の場合、家族ですから、人工呼吸そのものに対する抵抗感というものは少ないわけですが、一般市民が人工呼吸を行うと不完全だったり、時間がかかるため、人工呼吸を行わず、心臓マッサージだけを続けるほうが、結果的に救命する確率が高いというデータがでているからです。また、以前は大きな心肺蘇生訓練用の人形を使って、大勢で交代に練習しましたが、今回は風船のように簡単に膨らませて上半身の人形ができる簡易キットを使って、各自練習しました。
この簡易キットがなかなかのスグレモノで、適切に胸部を圧迫できると、カチカチと音が出るようになっています。講習後は持ち帰り、自宅で練習することも可能です。受講者の皆さんの熱気と意欲に圧倒される思いでした。
ご高齢な方もいらっしゃいましたが、私でも続けるのがハードな心臓マッサージに一生懸命取り組んでおられ、家族を助けたい!という思いが強く伝わってきました。
実際の心肺蘇生は難しいものではなく、やる気さえあればどなたでもマスターできます。
いざという時に愛する家族の命を救えるように、心肺蘇生をマスターしたいと思いませんか?救命講習は、最寄りの消防署で行われていますので、興味のある方はお尋ねください。