実習での出逢い

2010.10.20
池口 佳子
  • 2010/10
  • 看護師:池口 佳子

看護教員になって8年目になりました。学生との実習は毎回、驚きと感動に満ちています。

ある成人看護学実習で、学生が話せないという寝たきりの女性を受け持ちました。
脳疾患の後遺症のためか表情は乏しく発語がみられない方に、毎日学生と手を握り「おはようございます。今日はいいお天気ですよ」「私たちに○○さんのことを教えてくださいね」と話しかけケアを行いました。
日に日にアイコンタクトをとれるようになったある朝、思いがけず「ありがとう」という言葉を私たちは彼女の口から聞いたのです。
学生も彼女もそして私自身も胸がいっぱいになり、手を取り合い泣きました。
彼女は話せないのではなく、話したくなかったから今まで話さなかったのです。
どれだけ長い間、彼女は自分の気持ちを表出する言葉を飲み込んできたのでしょうか。

看護師は、次から次に運ばれてくる患者様に対し、病を持ったこういう方と申し送られた通りに先入観を持ちます。
でも、本当にその方を知るためには、自分の目で見て感じ考えていくしかないのかもしれません。学生はケア技術も未熟で、知識もまだまだこれからです。
でも、一生懸命に人に向かう気持ちはきっと相手に伝わります。
患者様が求めているのは、誰よりも自分のことを心配したり考えたりしてくれるそんな存在かも知れません。

この臨地実習での原体験は学生にとっても忘れられない体験となって、その後の看護観に大きな影響を与えてくれるものとなるでしょう。
学生は患者様の様子をみて一喜一憂し、自分の未熟さを反省し成長していきます。学生にとって実習は、乗り越えなくてはならない大きな課題です。
この課題を乗り越えて、看護観も人間観も大きく育つのです。
看護教育は多くの患者様や御家族の方々、先輩方に支えられています。その時御縁があって出逢い別れていく。しかし確かに築かれる関係性があります。

実習終了時、何倍も歳の違う二人が、お互いの今後を気遣い泣きながら別れを惜しんでいる。
そこに至る過程は複雑で、二人にしか分からないものかも知れません。でもそんな二人を見守れる看護教員を、とても幸せな職業だと思う今日この頃です。

看護コミュニティ

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