みなさんは病院ではなく、患者さんの自宅で看護を提供する看護師をご存知でしょうか。私は2010年4月に聖路加看護大学に来るまでは、訪問看護の仕事をしていました。ここでは訪問看護の魅力についてお伝えしたいと思います。
どこかに出かけていて、家に帰りついたらホッとしませんか?自宅は、その人が生活してきた歴史がつまり、自由気ままにくつろげる場所です。また、家族に囲まれ、自分の存在意義を確認できる場所でもあると思います。入院中は一日中ベッドで寝ていた患者さんでも、家に帰ってくると普段着に着替え、家事や仕事をしたり、すごくおしゃべりになっていたり、入院中とは違った姿を見せてくれます。家では、病人の顔以外に、患者さんが本来持っている役割、父や母であったり、夫や妻であったり、子供であったり、近所のおばさんであったり、ペットの世話人であったり様々な顔を見せてくれます。安静にしていないといけないのに、家事を始めたりして、家族が心配して、言い争いが始まるなんてこともあります。また、今まで慣れ親しんだ味や食器だからこそ、食事を食べられたり、ゆっくり入れる慣れたお風呂場だからこそ入浴を楽しめたりもできます。訪問看護では自宅のそういった環境をできるだけ壊さないようにしながら、その人らしく療養生活を送るためのお手伝いをしています。
こちらがお手伝いするばかりではありません。以前お茶の先生に訪問看護した時は、礼儀作法を教わったり、絵が好きな患者さんからは絵の説明を受けたり、料理好きの患者さんからは料理を習ったり、患者さんから教えて頂くこともたくさんありました。そういう時の患者さんはいきいきしています。訪問看護は1回約60~90分ですが、自宅の持つパワーや雰囲気を感じられる場所に訪問させてもらうことで、私自身も元気づけられたものでした。
当たり前ですが訪問看護はこちらからお伺いする立場なので、家の主人は患者さんであり、私たち看護師はお客です。そのため必要なケアであっても患者さんが納得しないと、「来なくていい」と門前払いされることもあります。だから、訪問看護師は患者さんが家でどのような生活を望んでいるのか、どうすればその望みが叶えられるか、患者さん・家族と同じ目標を持って歩んでいくことが必要になります。訪問看護では注射や褥創の処置など医療行為だけでなく、体に負担がかからない清潔方法を工夫したり、患者さんの精神的ケアを行ったり、家族の相談に乗ったり、医師やヘルパーなど療養生活に関わる人々と連携をはかったり、自宅での生活を支えるために様々な部分に関わっていきます。一人ひとりの家の環境が違うように、ケアも一人ひとり状況に応じて変えていかなければなりません。しかし、そこに難しさもあるし、やりがいもあります。リハビリをただベッド上で行うのではなく、本人の大好きな庭に行くことでリハビリを楽しく行う、病院嫌いで寝たきりの患者さんがわざわざ受診しなくてもいいように医師と連絡をとって家で点滴をする、認知症の患者さんには地域の社会資源などをうまく利用しながら安全対策を考えていく、終末期の患者さんが家で安心して最期を迎えることができるようケアを整えていく等、訪問看護が担っている役割はたくさんあります。24時間医療者が側にいるわけではない自宅で、多職種とチームを組み、力を合わせて療養生活が継続できる時は、それぞれが自分の役割の大切さを認識し、皆で喜びあうことができます。
現在、訪問看護の現場で働く看護師はまだまだ不足しています。病気を持ちながらも家でその人らしく生活することを直接支えることのできる訪問看護の魅力をもっとたくさんの人に知ってもらい、一緒に働ける仲間が増えることを期待しています。