私は現在、本学大学院博士後期課程で国際看護学を学んでいます。国際看護に興味を持ったきっかけは、幼少期にソロモン諸島に行き、子供が教育を受けずに仕事を手伝っていた光景に衝撃を受けたことと、大学時代に教員に勧められアフリカのウガンダ(以下ウ国)へ研修に行き、保健医療の格差に衝撃を受けたことです。その後、青年海外協力隊保健師としてウ国へ行き、帰国後、大学院に進学して、インドネシア(以下イ国)で研究を行っています。このウ国とイ国での経験の中から、海外と日本の相違・共通点と、どうして国際看護学を学ぶのか?お話します。
叶えられなかったウガンダ人看護師の研修
ウ国では農村部の病院で活動していました。ある時、日本の短期看護研修にウ国看護師の募集がありました。日本での経験をウ国に持ち帰ってほしいという思いで、看護師のAさんを推薦しました。Aさんは、若くして病棟責任者を任された皆からの信頼が厚いナースです。しかし、残念なことに落選してしまいました。 理由は、既往歴の存在でした。
Aさんがどれだけ楽しみにしていたかという気持ちを察すると、私はどのように声をかければよいのかわかりませんでした。意を決してAさんに会いに行くと、「よくあることよ。最初の就職活動のときも、その既往歴を理由に断られたから、これで2回目ね。昔は今のように予防接種が普及していなかったからその疾患に罹患したのよね。でもこれが私の人生。またチャンスをみつけるわ。」と笑顔で答えていました。日本のように予防接種の機会が整っていれば、その疾患に罹らなかったはずであり、保健医療の国家間の格差を感じるとともに、健康状態が理由で教育を受ける機会が得られない、教育が受けられないから健康状態が悪くなる、そんな悪循環が少しでもなくなればと願いました。
高齢化を迎えるインドネシアの健康課題
大学院では、イ国の留学生やイ国看護師候補生と共に学ぶ機会を得ました。研究場所は、首都から約200km離れた農村部の県です。広大な水田が広がり、農業従事者が多く、殆どの人々がイスラム教徒です。高齢化や石油・ガス産業による経済発展が進み、沿岸部であることから人々は塩分の多い食事を好むため、高血圧が健康課題の1つです。
そこで私は、県の高血圧の人々の健康行動について関心を持ちました。人々にお話を伺うと、「神様のために子供の学費のために毎日働けるよう、健康が大切だよ。農業で学費を稼ぐのは大変。でも私は小学校までしか卒業できなかったから、子供には高校や大学を卒業して、良い暮らしを送ってほしいと願っているんだ。」と、イスラムの教えを基に、神のために家族のために、毎日精一杯働いています。子供の教育や生活を優先するあまり、自身の健康に気をつかわず、気づいた時には脳梗塞等の疾患を発症することもあります。祖父母が農家であった私は、農業に支えられていた数十年前の日本も同様の状況だったのではと想像します。
近年イ国の主要大学では国際看護学会が開催されています。そこでは、幅広い分野の看護研究が進められており、自国の健康課題や看護を良くしたいという看護職の熱意を感じます。
さて、最初の質問に戻り、どうして国際看護学を学ぶのか?ですが、日本が歩んできた歴史をふまえて、今後同様に高齢化に向かう国々がより良い生活を送れるように、日本の保健医療や看護の経験を共有することが、世界に住む日本人として必要だと考えます。国は異なりますが、看護学を通じて社会に寄与したいと共通の願いを持つイ国の看護職と今後も一緒に活動できればと思いつつ、学びを深める毎日です。