訪問看護師としての原点

2014.09.20
寺﨑 譲
  • 2014/09
  • 聖路加国際病院訪問看護ステーション
  • 訪問看護認定看護師:寺﨑 譲

看護師となって今年で7年目。大学卒業後は、聖路加国際病院の内科・外科混合病棟で2年働き、3年目からは訪問看護ステーションへ異動し現在に至っています。
元々、看護師になるきっかけが訪問看護師との出会いでした。私の祖母は遠方に住んでおり、畑仕事が趣味の元気なおばあさんでした。しかし、そんな祖母が60代で突然ALS(筋委縮性側索硬化症)という難病を発症。そこから在宅療養の始まりです。その頃、私は大学受験に躓き、将来何をするかを悩みながら暗いトンネルを通るような生活が待っている状況でした。祖母の家に行っても、訪問看護師が来訪しておりましたが挨拶をする程度で実際何を行っているか見たこともありませんでした(祖母も嫌がっていたこともあり)。ちょうど実家に帰る日も訪問看護師が来訪しており、何気なく挨拶をして帰ろうとした時に「手を握ってあげて」と声を掛けられ、手を握るとそれまで無表情だった祖母が大号泣しているのです。手を握るという何気ない行為が、祖母の嬉しさ・喜び・寂しさ・不安・喪失感を表出するきっかけの一つになったのだと後になって感じました。慣れ親しんだ家で生活できるようにサポートができ、一言の声掛けが祖母と私をより通じる働きかけをした看護師の素晴らしさに感銘を受け、将来は訪問看護をやろうと志したのです。

では、実際訪問看護とは何をするの?患者さんや家族だけでなく、医療者からもこのような質問は多々されます。ここで一言訪問看護とは何かを説明したいと思います。在宅で療養されている患者宅に看護師が訪問し、身体状態は勿論のこと採血やFoley交換等の処置やおむつ交換、入浴介助等のケアを行っており、病棟看護師が行うことを自宅で行っています。では、病院との違いは何か。フィールドが患者宅である為、主体は患者・家族であることが大前提です(病院でも基本はそうですが、医療者主体になりがちになってしまうので、敢えて強調しました)。また、家によって家族構成、経済状況、家屋の状態、介護度等が異なってくる為、個別性を重視して向き合わなければなりません。病院では、医療物品や処置スペースを確保することは容易ですが、自宅では限られた資源の中で行わなければなりません。物品の選択や使用頻度も経済面を考慮し最小限に抑えることも必要になります。また、一人で訪問し次の訪問までを予測し判断しなければなりません。その為、普段と違ったサインを見逃してはならない観察力も必要であり、時には主治医と連絡を取り、病院への搬送がスムーズに出来る様に調整することもあります。

訪問看護を始めた当初は、病院と在宅での違いに戸惑うのと同時に私は2年の病棟経験であった為、知識だけでなくコミュニケーション能力、アセスメント能力全てに於いて足りない状態でした。1年、2年と経つにつれ少しずつ慣れてきた3年目のある日、当時の所長が「認定看護コースに行かない?」と提案してくれたのです。寝耳に水とはこのことで、認定看護師なんて遥か彼方の存在であるのにそのような話だったので、状況を理解するのに時間を要しました。しかしながら、頂いた大事なチャンス、9か月間聖路加看護大学看護実践開発研究センター(当時)で今まで経験した訪問看護を振り返り、日本全国の訪問看護師と一緒に学ばせて頂きました。研修では知見を広げるだけでなく、物事を俯瞰して捉えることの重要さも学ぶことができました。今年から訪問看護認定看護師という肩書を担うようになり、身の引き締まる思いと新たな試みや取り組みを訪問看護ステーションから発信したい思いを抱いてます。
今回の原稿依頼を受け、看護師としての原点とは何か、動機やきっかけを振り返った所、祖母に訪問していた看護師との関わりであることでした。普段、目の前の業務や新たな取り組み等で忘れがちになりますが、原点を思い出すことは何を大事にして看護をしたいか、自分への問いかけであり、今回改めて考えることができました。

看護コミュニティ

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