「大切に育てます」
看護部長のこの一言が印象に残り、就職する病院を決めた。他にも、自然が多いところや、院内の動物をみんなで大切にしているところなど、魅力的な所はたくさんあった。しかし、決め手はやはり、この一言だったように思う。
学部生だったころの私は、バンドやバイトや散歩など、先のことは考えず好きなことばかりしていた。そんな私も4年生になり、就職を考えなければいけなくなった。とにかくマイペースでのんびり屋な私は、実習をする中で、ゆったりした雰囲気が自分に合っていると思ったので「精神科の看護師になりたい」という夢を持ったが、かなり悩んだ。1年目でもやっていけるのか、精神科で看護技術が身につくのか...今思うと、進む診療科は関係なく、ちゃんと看護師になれるのか、という不安が大きかったのだと思う。周囲が次々と就職先を決めていく中、私は悩み続け、せっかくなら自分の好きなことしたいな、と思い、大切に育てると言ってくれた精神科病院に就職することにした。
就職後は、看護部長の言葉通り、本当に大切に育ててもらった。他者にSOSを出すのが苦手だった私は、勤務後に突然泣き出したり、食欲が落ちて食事をとらずにチョコレートばかり食べるようになったりと、周囲の先輩方に結構なご心配をおかけしたと思う。それでも、頑張ってるねと肯定的にフィードバックをしてもらったり、お昼に職員食堂へ連れて行ってもらったり、夜勤明けにとびきり美味しいホットケーキ屋さんに連れて行ってもらったり、試用期間の卒業を手作りのケーキでお祝いしてもらったりと、ここには書ききれないくらい病棟の先輩みんなに優しくしてもらった。患者さんにも、「慣れた?」と声をかけてもらったり、配膳の方法を教えてもらったり、人生の先輩として相談にのってもらったり、たくさんの方に温かく接してもらえた。そういう温かさの中で、「ちゃんとしなきゃ」というプレッシャーが、いつしか「やっていけそう」という安心に変わり、少しずつ看護師になっていけたのだと思う。
看護師3年目になって少し経った頃、プリセプターをやらないかという話をいただいた。指導の方法なんて分からないし、どうしようと戸惑っていたけれど、上司からかけられた言葉は「あなたがされていたように育ててくれれば大丈夫」だった。この言葉は、今でも私を支えてくれる言葉の一つで、思い返す度、心が少し軽くなる。迎えたプリセプティーはあの頃の自分と同じように緊張していて、私も同じく緊張していたけれど、少しずつできることが増え、着実に力をつけて頼もしくなっていく姿に私が元気をもらう日々で、とても贅沢な時間だった。
こうして思い返すと、看護師としての私があるのは、周りの人の温かさがあったからだと、あらためて実感する。まさか自分が教員になるなんて思ってもみなかったけれど、自分がしてもらったように温かく見守ることを大切に、教育と研究の側面から少しずつ先輩方と患者さんに恩返しをしていくのが、今の私の夢である。