東ティモールの学校保健

2015.12.01
山本 聖子
  • 2015/12
  • 看護師・保健師:山本 聖子

みなさんこんにちは。私は今、東ティモール共和国という東南アジアの国で学校保健活動を広める仕事をしています。 学校保健というと、何を思い起こすでしょうか?保健室、保健体育の授業、保健委員会、毎年の健康診断...こういった保健教育は日本では当たり前のように実施されていますが、東ティモールのような貧しい国ではなかなか手がゆきとどきません。最低限の衛生の維持すら難しいこともあります。例えば給食の前に手を洗おうにも学校に水道がない、水がないのでトイレ掃除ができず汚れがたまっている、先生は手洗いや掃除の重要性はわかっているものの、人員不足で仕事が山積みだったり、家庭や教会の行事(東ティモールでは仕事よりもこちらが優先されます)で忙しく、生徒への保健教育が十分にできないといった現状があります。

Tippy Tap1.jpg 子どもたちの保健・衛生に関しては、家庭や医療現場にも厳しい現実があります。
日本の多くの家庭では、いつでも蛇口から水が出て手洗いや歯みがきができ、保護者が子ども一人一人に十分な時間をかけて面倒を見ることができ、手に入る食材も豊富です。しかし東ティモールでは、地域によっては水道や電気がありません。多産を良しとする文化やカトリックの影響により兄弟の人数が5~6人は当たり前で、保護者が子どもの世話にかけられる時間は限られています。地域や季節によっては食材に限りがあり、特にタンパク質が不足しがちです(肉や卵は高級食材で、毎日食べられるものではありません)。
 東ティモールは医療費が無料なので、受診のために経済的な心配をしなくて済むという点は長所のひとつです。しかし自分の家から病院まで何時間も山道を歩いたり、雨季になると道路が水没し病院までたどり着けない、というアクセスの問題があります。また医師数が少ない(日本は医師1人あたりの人口が469人であるのに対し、私の活動しているエルメラ県では3055人)ため診療時間が十分にとれない、看護師や助産師も卒後研修の機会が少なく知識・技術をみがくことができないといった要因で、質の高い医療を提供できていないという問題もあります。

 このように、子どもたちが病気を予防するための物が乏しく、知識を得ることが難しく、病気にかかっても質の高い医療を受けられないという状況があります。またこのような問題は保健や医療の分野だけで解決できるものではなく、教育、行政、農業など様々な分野が一緒に取り組まなければならないということを痛感しています。私どもの団体を含め様々な団体や国際機関が国レベルに対して支援やアドバイスをしていますが、社会的・政治的な要因もあり、省庁同士の協力はなかなか進まないというのが現状です。
 私どもの団体では、国レベルへの支援だけでなく学校現場の先生、生徒が自主的に学校保健活動を続けられるような草の根支援にも力を入れています。水道がなければ、生徒が家から1人1本ペットボトルで水を持ってくるようにする、集めた水はTippy Tapと呼ばれる手作りの手洗い用具に入れ、節水しながら手が洗えるようにする、手洗いはなぜ大切なのか、絵やお話しを使った教材で楽しく保健の授業をする...などです。このような取り組みが多くの学校に広まるよう、先生への研修会を開いたり、学校保健トレーナーを養成し学校の状況をモニタリングしたりといった活動をすすめています。

 東ティモール人の実直でまじめな仕事ぶりが功を奏し、学校保健活動はゆっくりとではありますが、確実に広まりつつあります。将来的には東ティモール全国に学校保健活動が普及し、子どもたちがより健康に、大いに学び大いに遊べるようになることを期待しています。

看護コミュニティ

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