「汝の欲するところをなせ」
という言葉は、フランスの医師で作家のラブレーが1532年に出版した小説の修道院の標語として記載されている。この標語は、フランス・ユマニスムの自由の精神を体現した言葉として広く知られている。
作家ミヒャエル・エンデは、1982年に出版した童話『はてしない物語』の中で、『汝の欲することをなせ』という言葉で、生きることは「したいことをする」と書いている。
主人公のバスチアンという少年は、「『汝の欲することをなせ』というのは、ぼくがしたいことはなんでもしていいっていうことなんだろう、ね?」とライオンのグラオーグラマーンに尋ねると、「ちがいます。それは、あなたさまが真に欲することをすべきだということです。あなたさまの真の意志を持てということです。これ以上にむずかしいことはありません。」 と返事が返ってくる。
それぞれの人が与えられている使命に気づき、真の意志、覚悟をもって人生に立ち向かうことができるかどうかというのが問われている。
私は、小学生のころに、マザーテレサやシュバイッツアーの伝記を読み、将来は途上国で医療活動がしたいと漫然と夢見て、看護の道に入った。大学に入学しても、発展途上国への想いは募り、大学が休みの間にスタディーツアーやボランティア活動などでネパール、タイ、インドネシア、ヨルダン、イラク、ブラジル、トルコなどの国々に行った。その後、途上国で仕事をするには、国際保健、公衆衛生学などを学ぶ必要があり、感染症や母子保健などの専門性を身につける必要があることがわかり、助産師になった。その後、世界の妊産婦や子どもたちに役立つ研究をしたいと大学院に進学し、念願だったベトナムでの調査を行った。その後、研究者になり研究所に勤務した。研究所では、世界保健機関の妊産婦のためのガイドライン作成し、国内の小さい赤ちゃんが増えている問題についての研究を行い充実した日々を過ごしていた。
あるとき、指導教官だった先生に「研究の結果は2、3年すればどんどん新しいものがでてきて古くなってしまうけど、人を育てたら30年、40年、いや100年後まで世界をよりよくすることができる」と言われてはっとした。多くの先生方に教わってきたことを、後輩の研究者に伝えグローバルヘルスの看護の分野の人材を育成したいという新しい使命がおりてきた。
4月から、看護のグローバルヘルス(国際看護)の大学教員となった。上司の先生から「やりたいことをやってください。好きなことでないと続かないから。」と言われて、冒頭の「汝の欲するところをなせ」という言葉が浮かんできた。私の本当にやりたいこと、世界をよりよくしていこうという仲間を増やしていくこと、100年後により素晴らしい世界になるように覚悟をもって望みたい。