「愛するということは、おたがいに顔を見あうことではなくて、いっしょに同じ方向を見ることだ」
星の王子様で有名な、サン=デグジュベリの著書、「人間の土地」に出てくるセリフです。
「愛」という言葉が冒頭にあるので男女の甘い言葉と思いがちですが、実はこのセリフ、物語の中では砂漠で遭難した主人公とその友人との間で交わされた言葉です。水も食料も底をつき、救援が来る可能性も絶望的、万策尽きたその中で、最後の希望となる1つのオレンジを分け合い、歩き始める・・・そんなシーンで出てくるセリフです。
セリフが紡ぎだされた背景を知ってから、この言葉の「愛するということ」は、看護にもつながることだと思うようになりました。看護をするうえでも、患者と同じ方向を見ることが必要になるからです。
ですが、臨床でそれを行うことは想像以上に難しいことでした。患者さんと過ごす時間が長い看護師にとってお互いの顔を見あうことは出来るのですが、患者さんが何を考え、感じ、これからどう生きることを望むのかを、分刻みのスケジュールの中で考えることは物理的にも精神的にも難しいことだったのです。それも、自分で言葉を発することさえ出来ない子どもだったら、考えることすら難しい状態だったら・・・下手をすれば看護師の思い上がりと自己満足になってしまう可能性すらあります。今までの臨床経験の中で、何人もの、病を持つ、勇気ある子どもたちと時を過ごしましたが、子どもたちと同じ方向を見ることが十分に出来ていたのかは、わかりません。そして、どうすれば同じ方向を見ることが出来るのかも、まだ、手探りです。それでも、患者さんと同じ方向を見るためには何をしたらいいのか、悩み、考え続ける事も、愛であり、看護であるような気がしています。
本学の建学の精神に「知と感性と愛のアート」という言葉があります。看護を形作る柱の一つについて、これからも患者さんに教えてもらいながら、考え続けて行きたいと思っています。