「大変なこともいっぱいあるけど、看護の仕事はやめられないねぇ☆☆」
私がまだ銀行員だった頃、看護師の友人がくれた手紙に書かれていた。彼女の経歴はおもしろかった。看護師になる前は、プロテニスプレイヤーをしていた。流れるままにテニスの道に進んでいたが、本当はずっと看護師になりたいと思っていたそうだ。テニスよりも看護の方が楽しいとのことだった。私はこの言葉の深い意味も分からず、「充実しててよかった。そういう人生も全然ありなんだな、ふーん。」とだけ思った。
数年後、私も銀行員から看護師へと転身した。目の前で病に苦しむ患者さんとご家族と一生懸命向き合い、精一杯の毎日が続いた。救命センターで働いていたこともあり、多くの悲しみを目の当たりにすることも少なくなかった。だんだんと、看護師をしていることに、虚しさや悲しさを感じることが多くなっていった。
そんな日々の中、地方からの東京旅行中に窒息CPAとなった患者さんを受け持った。低酸素脳症で予後は悪く、ご家族は悲しみに暮れていた。大変なことがたくさんあったが、患者さんとご家族はそれを乗り越え、地元の病院に転院する運びとなった。やっと自宅近くに戻れると思うと感慨深かった。退院日前日、入院時にとても綺麗にお化粧をしていたことを思い出した。午前9時の出発に向けて、全身清拭、シャンプー、整容を早朝より行った。頑張った患者さんの為だけでなく、ご家族に対する気持ちもあった。東京での思い出を、単なる悲しい思い出だけで終わらせてほしくない、悲しみの中にも何か一つでも嬉しいことがあればこれからの糧になるのではと思った。病室に来たご家族は、綺麗になった患者さんを見てとても喜んでくれた。「ありがとうございます。帰ってからも頑張ります。」というお言葉を頂戴した。地元に帰れるまでに安定したこと、ご家族の表情が柔らかくなったこと、何より患者さんと家族の頑張りが転院につながったこと、、、挙げればきりがないが、ご家族のこの言葉に只々、本当によかったと心から思った。看護師になってよかったという気持ちが自然と湧き出てきた。
銀行で働いていたらこんな気持ちになれただろうか、、、、?銀行の仕事もとても大切な仕事だ。しかし、こんな風に心から「よかった」と思えることはなかったと思う。こんなに純粋にただひたすら誰かの為を思い、悩み、向き合うことはなかっただろう。ある時、ある国のエリートと話す機会があった。私の経歴を話すと、彼は質問してきた。「なんで、看護師なの?銀行のほうが楽だし、給料も2倍でしょ。なんで大変でお金も少ない方選ぶの?辞めて銀行員に戻った方が絶対いいよ!」私はこう答えた。
「大変だけどねぇ、看護の仕事はやめられないよ☆☆」