京都にある永観堂(えいかんどう)というお寺を知っていますか? ここに「みかえり阿弥陀さま」で知られる本尊像が祀られています。このお寺は、秋も一段と深まると、境内にある紅葉が赤く色づき、見事な景観をみせてくれることでも有名です。
看護師として'中堅'と呼ばれるようになった頃、忙殺されそうな日々からとにかく抜け出したいと無計画に訪れた京都で、この阿弥陀さまに出会いました。みかえり阿弥陀さまは、その名のとおり、正面ではなく、顔を左に向けています。左肩越しにさりげなく後ろを振り返り、歩みの遅い者たちを静かに見守っているようです。
この阿弥陀さまを前にして座ると、絡まった感情の糸がときほぐれるといいますか、肩の荷が降りるといいますか、からだの力がすっと抜けていくのを感じました。阿弥陀さまのように、誰かがどこかで私を見てくれていると思うと、今はただただ前へと歩み続けてみようという気持ちになれました。
それから随分と時間が経ち、今年、看護学の教員となりました。どんな教員を目指すのかを考えたとき、これまでお世話になった恩師とともに、あの「みかえり阿弥陀さま」が回顧されてきました。恩師は、まるでみかえり阿弥陀さまのような優しく静かな佇まいで、私のよろよろとした歩みを見守ってくれていたのではないかと思えたのです。このとき、モデルとなる教員像が具体化されたように感じます。
私自身もそうであったように、新しいことに挑戦しようとする学生にとって、自分の力を信じて進むということが、ときに難しく思うことがあります。打開策が見当たらずに逆境に陥れば、心が折れてしまうこともありますし、全力で事に臨もうと体当たりしてみると、反対に打ちのめされてしまうこともあるからです。そのようなときこそ、学生が本来もっている、自分の力を信じてその一歩を踏み出せるように、私は精一杯に後ろを振り返り、目を配ることのできる者でありたいと思っています。