私は、1987年国家公務員共済組合連合会虎の門病院のCCUの新人ナースとして臨床家としてのスタートを切り、やっと一人前になった3年目の頃に「気持ちよさ」をもたらす看護ケアにハッとさせられました。
前日に10時間かけて心臓バイパス術を受け、気道にチューブを入れたまま、一晩中、人工呼吸器を装着した(当時は手術翌日の朝まで人工呼吸器を装着しているのが一般的であった)患者Aさんを受け持ちました。朝、医師が気管チューブを抜いた後に、私はルーチンケアであった背部温罨法と清拭ケアを実施しました。
70℃くらいの湯でつくった蒸しバスタオルで患者Aさんの背中を温めると、患者Aさんは「ああ~気持ちいい~」と、ため息をつきました。その後、蒸しタオルでからだを拭き更衣を終え、ベッドの背もたれをあげて患者Aさんが座位になれるように体位を整えた時、CCUの入り口から医師が入ってきました。すると患者Aさんは、その医師に向かって「おはよう」と手をあげたのです。
ケア前には、問いかけにうなずく程度の反応しか返せなかった患者Aさんが、ケア後には、表情を変えて、自ら進んで手をあげ、声をかけたのです。この現象は、時間にしてわずか20分程度の看護ケアではあるけれども、総称としての開胸術後の患者さんから、個としてのAさんに変化したことを看護ケアがもたらしたと、語っています。「気持ちよさ」をもたらす看護の力ってすごい!これこそ看護だ!と思った体験でした。
この体験をきっかけに、聖路加看護大学大学院に入学し「気持ちよさ」をもたらす看護ケアについての研究がスタートしました。そこから20年が経過した現在、「気持ちよさ」の看護ケアは、患者さんに爽快感やリラックス感、症状緩和、意欲や自発性の高まり、生活行動の拡大などを通して「その人らしさ」をもたらし、看護師には、患者との信頼関係の構築やケアに対する満足感や自信、ケアへの向上心などをもたらすことが示されています。
昨今の医療・看護現場を見ると、医療・看護の効率化・合理化と過剰な医療安全管理の波に、「気持ちよさ」をもたらす看護ケアの多くが、多忙や安全性を理由に実施することが難しくなっています。しかし、闘病する患者さんたちは、日々ストレスフルな中で「自分らしく生きよう」と頑張っていますし、そこに関わる看護師たちも「自分らしい看護をしよう」と患者と共に頑張っています。今だからこそ、もう一度、「気持ちよさ」をもたらす看護ケアについて考えてみませんか?