ヘンダーソンの「看護の基本となるもの」で、放射線看護をよりよく!〜放射線科における看護を深めるための取り組み〜

2019.05.25
内田真美
  • 2019/05
  • 放射線科看護師:内田真美

みなさんは放射線科と聞くと、骨折した時に撮影するレントゲン撮影(一般撮影と言います)やCTなど「検査」をする科をイメージするのではないでしょうか?検査室に看護師はいたかな?と思う方もすくなくないでしょう。何を隠そう私自身もそう思っていたひとりです。

実は、放射線科は「検査」だけでなく「治療」もする科なのです。そして、もちろん看護師もいます!放射線科で「治療」というと、がんの三大治療の「放射線治療」をまず思い浮かべると思います。今は、それだけでなく「IVR(Interventional Radiology)=画像下治療」と呼ばれる治療があります。これは、放射線(X線・CTなど)の画像診断装置で身体の中を映しながら、カテーテルという細い管を体に入れて病気の部分まで到達させて、標的となる部分を治療する方法です。IVRは、手術のように全身麻酔ではなく、局所麻酔でおこなうため、患者さんは意識がある状態で、ベッドに短くて30分ほど、長い場合は3時間以上寝たまま治療を受けることになります。IVRにつくことも放射線科看護の大きな仕事のひとつです。

このように放射線科の看護は、検査や治療と幅広いのですが、病棟看護ではなく、また手術室看護とも違って特殊なため、まだあまり深められていない新しい分野です。検査手順に沿って患者看護し、少しでも患者さんが安全・安楽な姿勢をとれるようにしたり、さらに患者さんの身体的・精神的・社会的側面を捉えながら患者さんの個別性に合わせた看護をおこなうように日々、つとめています。しかし、時間で決まっている検査や治療を1人で担当するため、看護師それぞれの工夫や気づきを共有する機会が少なく、自信を持って看護できないこともありました。そこで、放射線科における看護をもっと深められるように、放射線科看護師全員で日々の看護を振り返り、意見交換をして、看護のよりどころをつくる取り組みをすることにしました。この取り組みをするにあたって、IVR看護研究会が、看護論についての著書があるヘンダーソンの「看護の基本となるもの」1)をIVR看護に落とし込んだものを発表2)していたため活用させてもらいました。

看護というとナイチンゲールですが、ナイチンゲールの著書で、一番有名なのは「看護覚え書」です。ヘンダーソンも、看護師ならば、学生時代の基礎看護学で一度は学んだことがある、ナイチンゲールの次くらいに有名な方なのです。ヘンダーソンの書いた「看護の基本となるもの」には、人の基本的欲求と基本的看護の構成要素について14項目が挙げられており、それは身体的側面だけでなく、精神的・社会的・スピリチュアル的な側面も含まれています。そのひとつひとつについて、放射線科ではどのような看護ができるかを月1回、1項目ずつ、1年以上かけて考えてきました。各項目で話し合った内容を紹介します。

  1. 1.患者の呼吸を助ける
    患者さんに酸素飽和度モニターをつけただけで安心せず、数値をチェックし読み上げて、治療に集中している医師にも伝えている
  2. 2.患者の飲食を助ける
    食事制限のある検査・治療の場合で開始時間が遅れることがあるので、その時は病棟に連絡して、食事制限の時間も遅らせてもらうように伝えて、患者さんの空腹やのどの渇きを少しでも癒せるようにしている。
  3. 3.患者の排泄を助ける
    検査・治療中はトイレに行けない状況になるので、事前にトイレに行ってから検査・治療に来てもらっている。それでも尿がたまってトイレに行きたくなることはあるので、患者さんがお小水をしたいと言えない気持ちを想像して看護師のほうから声をかけ、お小水をしたい場合は医師と相談して治療の合間をみて、患者さんの羞恥心に配慮して医師などには一旦、席をはずしてもらって尿瓶をあてて排尿してもらい尿意の心配がなくなった状態で改めて検査・治療を再開してもらっている。
  4. 4.歩行時および坐位、臥位に際して患者が望ましい姿勢を保持するように助ける。また患者がひとつの体位からほかの体位へと身体を動かすのを助ける
    ベッドの上で長い時間同じ姿勢でおこなうことが多いので、患者さんの意識レベルや運動能力、検査の目的を細やかに調べ、検査台ではタオルやスポンジなどを工夫をして使い、患者さんに少しでも負担がないようにケアしている
  5. 5.患者の休息と睡眠を助ける
    IVRでは、鎮静剤という薬を使って、うとうと眠った状態になっておこなう場合もあるが、そうでない場合も多い。患者さんは全身麻酔の手術のように眠った状態でできると思っていることもある。事前に、鎮静剤を使うのかどうか、どのくらい時間がかかるのかという見通しを患者さんにお話しすることで患者さんがイメージをつかみやすいようにしている。また眠りたいという希望がある場合は、医師にもその希望を伝えて実現できるかどうか相談している。
  6. 6.患者が衣類を選択し、着たり脱いだりするのを助ける
    検査・治療では、検査着になってもらうが薄くて保温性もなく、検査・治療する部位をはだけた状態にするため羞恥心にも留意しなければならない。検査着になることで検査・治療をスムーズにすることだけを考えるのではなく、検査着をはだけた状態の場所でもできるだけタオルで隠すなど患者さんのプライバシーの保護や不安を少なくすることなど患者さんの立場になって考えるようにしている。
  7. 7.患者が体温を正常範囲内に保つのを助ける
    IVRの部屋の温度は検査機器のためにほぼ一定にしているため温度調節をしづらい環境である。患者さんが寒い場合は保温庫にある毛布で温め、暑い場合は掛け物を薄くするなど調整し、場合によっては首など太い血管が通っている場所を保冷剤で冷やして対応している。また、鎮静剤を使っている場合は、患者さんが眠っていて暑さ・寒さを伝えられないため、実際に患者さんに触れて体温を確認している。
  8. 8.患者が身体を清潔に保ち、身だしなみよく、また皮膚を保護するのを助ける
    消毒液を拭き取る時には、あたたかいタオルを使って汚れが残らないように注意している。またチューブを固定するためのテープは粘着力が強いためテープを貼る前には皮膚を保護する塗り薬を使い、テープを剥がす時には、剥がしやすくする塗り薬を塗って剥がすようにして皮膚に優しくしている。
  9. 9.患者が環境の危険を避けるのを助ける。また感染や暴力など、特定の患者がもたらすかもしれない危険から他の者を守る
    検査台に乗る時に、患者さんが転んだり、点滴の針が抜けたりしないように注意している。
    同じ検査室で、たくさんの患者さんが順番に使うため、一回一回、感染予防について検査につくスタッフと情報を共有して、医療者を介した感染拡大がないようにしている。
  10. 10.患者が他者に意思を伝達し、自分の欲求や気持ちを表現するのを助ける
    子供の場合は、子供の権利を守って「○○していい?」「いつでも何かあったら話していいよ」と子供の許可を求めたり、子供は不安や恐怖があると感覚的に「痛い」と思うので「痛くないよ」というのはウソになってしまうということを知った上で声をかけて、子供が自分の気持ちを話せるようにしている。
  11. 11.患者が自分の信仰を実践する、あるいは自分の善悪の考え方に従って行動するのを助ける
    つらい検査や治療をおこなうことになった場面でも、看護師は患者さんにいくつかの選択肢を与えられるような声かけをして、医師と患者さんの間に立ち、患者さんの代弁者としての役割ができるとように心がけている。
  12. 12.患者の生産的な活動あるいは職業を助ける
    がんに放射線を照射する治療は、数週間、毎日通院する必要があるため、仕事や育児・介護など、その人らしい生活ができるように、患者さんが大事にしているものを支援していくようにしている。
  13. 13.患者のリクリエーション活動を助ける
    MRI検査は狭い場所で行う検査で、時間がかかることが多いため、子供がMRI検査を受けるときには、狭いところにいることを忘れさせる工夫として間違いさがしなどをMRIの機械に貼って検査している。
    検査によっては患者さん自身にかけてもらいたいCDを持ってきてかけている。
  14. 14.患者が学習するのを助ける
    造影剤を使ったCT検査では、検査後に造影剤はお小水と一緒にほぼ1日のうちに出ていきます。そのため水分をとってもらうように伝えるための工夫として、いつもは何を飲んでいるのか質問し、お茶の場合はお茶でもよいと伝え、夏で脱水になりやすい時は早めに飲むように伝え、お酒を飲んでもよいかという質問には飲んでもよいけれど、お酒とは別にお水も飲むように伝えるようにしている。

 

このように、日々の看護を振り返り意見交換をする中で、放射線科では大人だけでなく子供も検査や治療に来るので、年齢に合わせた声のかけ方を工夫していることを共有できたり、精神的な面では、つらい検査や治療をおこなうことになった場面でも、看護師は患者さんにいくつかの選択肢を与えられるような声かけをして、医師と患者さんの間に立ち、患者さんの代弁者としての役割ができるとよいという姿勢を確認できました。そして身体的だけでなく精神的・社会的・スピリチュアル的側面をとらえることの重要性も再認識できました。

そして、自分の実践している看護を発表することで、お互いにポジティブフィードバックを得る機会ともなりました。もし「放射線科の看護師って何をするの?」と質問されたら、自信をもって答えられるようにもなりました。そして、なにより、放射線科看護をより深めたいという意識が、看護師みんなのなかで高まったことがよかったと感じました。

今回の取り組みをきっかけに、これからも放射線科の看護を深め、広めていきたいと思っています。

  • 1)V・ヘンダーソン著(湯槇ます、小玉香津子訳):看護の基本となるもの, 新装版 日本看護協会出版会, 2006.
  • 2)IVR看護研究会プロジェクトメンバー:BASIC OF IR NURSING CARE , IVR看護研究会15回記念(冊子), 2015
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看護コミュニティ

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