『郡上』の地で、子どもと家族への丁寧なケアを思う

2019.06.03
相澤恵子
  • 2019/06
  • 看護師:相澤恵子

平成から令和に元号が変わる夜、岐阜県の郡上八幡では400年の歴史をもつ郡上おどりが開催された。例年は夏場に開催されるが、今年は改元を祝うため時季を違えて催されていた。踊り手が奏でる厳かな下駄の音を聴きながら、私はこの土地にゆかりのある、とある先輩看護師のことを思い出した。

新人看護師である私が配属されたのは小児病棟であった。ひと時代前の話である。私が就職して間もない頃から大切にしていたことは、一つ一つのケアを丁寧に行っていくことである。丁寧なケアが、子どもや家族との信頼関係構築の土台になると信じていたからである。
元来がさつな私が、子どもにとって苦痛が少ない方法でケアを丁寧に行うには、一つ一つの動作とその順番、それらの手順が最適である理由を頭と体に叩きこむ必要があった。ずいぶん多忙な病棟であったが、先輩方は皆熱心に手ほどきをしてくれ、熟練したケアのコツを教えてくれたり、私が行ったケアについてその場でフィードバックしてくれたりした。重症な子どもを複数担当していても、ケアの組み立て方、計画によって、担当するすべての子どもに丁寧なケアが実現できることも知った。
先輩の中でもとりわけ所作が美しく、無駄がなく、丁寧なケアを行っていたのが『郡上』の地ゆかりの先輩看護師である。彼女は、体の向きを変えるときに、寝衣の後ろ身頃に皺ができないように伸ばしてから、一番楽になるであろう体の各部位の向きや位置を見極めて、やさしく体を置く。二つ折にした掛布団の角と角を揃えてから、そっと体にかけ、医療機器と子どもの体との位置関係を整える。仕上げに床頭台を手際よく片付ける。穏やかな表情を浮かべながら子どもの様子を確認する。最後に手を洗いながら私へアドバイスする。そして、次にケアを必要とする子どもの元へと向かう。
その先輩の勤務帯の後は非常に働きやすく、子どもや家族の表情が穏やかだったのを覚えている。先輩のような看護師になりたいと、やり方や手順を見よう見まねで習得した。子どもや家族との会話に聞き耳をたてた。 数年が経過し、私が先輩看護師のような看護師になれたか評価をくれたのは後輩であった。「私が勤務した直後は病室が整っている。そんな丁寧な仕事をする私に引き継ぐのはプレッシャーで、私の前の勤務帯は嫌だ」という。私の所作が美しいかは別として、少しは先輩看護師に近づけたのかなと嬉しく思ったことを思い出す。
郡上おどりが400年続くように、先輩看護師から受け継いだ子どもと家族との信頼関係を築く土台となる丁寧なケアが、次の時代にも続いていっているといいなと後輩の活躍を願う夜となった。

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