7年後に思うこと〜再演習の女王が基礎看護から得た学び〜

2021.02.02
今村 智美
  • 2021/02
  • 看護師:今村 智美

 人生の次のステップに進もうかという看護師5年目の12月、Facebookが「7年前の今頃」と、ある投稿をリマインドしてきた。基礎看護技術論の授業が全ておわり、単位がとれてよかった、というものであった。
学部2年次の基礎看護技術論には、全身清拭、ベッドメイキング、導尿などの10項目の演習と呼ばれる実技テストがあった。私は、そのうちの4項目が再演習になっていたのである。夏休み明けの後期に行った筋肉注射、静脈注射、採血の針を用いた3演習を除くと半分以上で1度の演習で技術習得にOKをもらえなかった。この科目は、演習前に看護技術の手順書を完成させることが課されていたが、手順書のプリントに0.3mmのシャープペンで手順とその根拠をびっしりと書き込んだ苦労も相まって、なかなかに忘れがたい科目だ。

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 11年前の高校時代に聖路加国際病院の病棟ボランティアの際にベッドメイキングの方法を習った。当時から看護師を目指していたので家でも再現し看護師気分になって満足したのだが、なぜシーツの角を三角に折るのだろうかと疑問に思っていた。その4年後、晴れて聖路加看護大学の2年生になり、基礎看護技術論の課題で手順とその根拠を書き込み、疑問は無事に解決した。さらに当時の私には難解に思えた「横シーツ」を1人で作る方法や、2人1組で1枚のシーツを折り畳む方法も習った。ところが、その後の実技テストでは、アルバイト三昧で練習をさぼった私に大量の「再演習」が待っていた。ベッドメイキングだけでなく、体位変換・車椅子移乗、導尿、吸引と再演習が増えるたび、先生の目線や「根拠は?」と口頭試問のような問いかけが恐ろしくなっていった。

 そんな私も無事大学を卒業し国家試験に合格して看護師として臨床に出た。あんなにベッドメイキングで苦労したにも関わらず、シーツはボックスシーツになっていた。もう三角は作らなくてもいいが、どんなに綺麗に敷いても皺ができる。横シーツだってわたしがボランティアをしたときには既に防水素材の丈の短いシーツだった。車椅子移乗はあんなにボディメカニクスや足の位置を考えたのに介助量の少ない患者であればズボンの腰部分を持つことが殆どであるし、いまやスライドボードなど便利グッズを使うようになっている。
 だが、演習に向けてみっちり書いた手順書に込められた根拠を突き詰めることは、基礎看護学の学問たるものだ。そして、科目担当のS先生が口癖のように言っていた患者の安全・安楽というすべての看護の基本を、今のやり方にも応用させる力をつけてもらったように思う。いにしえの看護師はピンとアイロンがかかった真っ白なシーツでベッドメイキングをしたのだろうし、緊急時には担架にもなる幅の広い横シーツを作っていたのだろうが、それは患者にとっては気持ちの良いものだったに違いない。ボックスシーツに変わっても、気持ちよさが提供できないわけではない。簡単にできる分だけ、患者の安全・安楽にさらに気を配り、実践しなくてはならない。

 先に書いたFacebookの投稿を見た友人がS先生に話したそうで、S先生からこの原稿を書いてみないかと声をかけていただいた(彼女もこのコラムに寄稿しており、演習に関しては『再演習の恐怖で放課後みんなで練習した』と書いているのでどれほど自分が練習を疎かにしていたか改めてわかる)。思いがけず、看護学を学び始めてからこれまでの9年間の統括のような機会になった。4月からは看護に近く少し違う道に進むが、母校で身に付けた力を武器にし、看護のポリシーを発展させていきたい。

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