「人工呼吸器が足りない」
COVID-19のパンデミックが起こる前、このようなことが現実に起きるなんて、想像したことすらありませんでした。
そして皆さんもこれまでにないくらい、人工呼吸器に関する情報を耳にしたのではないでしょうか。
私は大学院の頃より、臨床看護師に対する人工呼吸器の教育について研究を行っています。
患者さんは人工呼吸器を装着している間、身体の状態に合わせて鎮痛薬や鎮静薬を投与されますが、苦痛を伴うことが多いです。
人工呼吸器のチューブを自分で抜いてしまわないように上肢を抑制された状態で、苦痛な表情で「抜いて」と訴える患者さんをみながら、本当にまだ抜いてはいけない状態なのだろうか、看護師としてもっとできることはあるのではないか、とモヤモヤした気持ちを抱えていました。そしてこの気持ちが大学院に進学した動機の一つでした。
人工呼吸器はそれ自体が肺を治療するものではありません。
人工呼吸器を必要とした病態が改善するまで肺を傷つけずに呼吸を補助すること。
つまり呼吸をサポートすることで一時的に楽に呼吸ができるようにして、人工呼吸器を必要とする疾患の治療が進むまでの時間稼ぎをするようなものです。
そのため、人工呼吸器を離脱するタイミングがとても重要になります。
まだ呼吸のサポートが必要な状態なのに、早すぎるタイミングで人工呼吸器を外してしまうと、体への負担が大きくなり病状をさらに悪化させてしまうこともあります。
反対に、もう人工呼吸器は必要としない遅すぎるタイミングで離脱すると、患者さんの苦痛が長引くのみならず、肺炎などの合併症を引き起こすリスクも高まります。
人工呼吸器からの離脱のタイミングを決定するのは医師ですが、そこには看護師も大きく関わっています。最適なタイミングを逃さないように、看護師は日々患者さんの全身状態を評価しながら、患者さんの状態について医師への情報提供やディスカッションを行います。
人工呼吸器を装着することで、肺だけではなく心臓や全身にも色々な影響を及ぼすので、離脱が可能かどうか評価するためには多くの知識と様々な情報を結びつけて考える能力が必要です。ただし、看護師が人工呼吸器に関する膨大な知識を身につけ、全身状態との関連を理解することは、そう簡単なことではありません。勤務外の時間で自己学習を行い、それを臨床で実際の人工呼吸器や患者さんを通して理解しようとします。その作業を何度も何度も繰り返しながら、時間をかけて経験を積みながら学んでいきます。
私が人工呼吸器を装着した患者さんを担当させてもらえるようになるまで、先輩に怒られてばかりの日々で、ずいぶん長い期間がかかりました。実際の臨床現場での患者さんを目の前にすると、勉強した知識を結びつけることがなかなかできず、自分がたくさん勉強したと思って挑んでも、やはり理解できない。参考書が近くにないと不安で、寝るときは枕の横に置いて寝ていました。
COVID-19の影響で、これまで人工呼吸器に触れてこなかった看護師も、人工呼吸器装着患者の看護を行わないといけない状況が増えました。つまずきやすい箇所や難しい部分をいかにわかりやすく伝えるか。そして効率的に知識と臨床を結びつける教育はどのような方法なのか模索しながら、教員として、人工呼吸器を学ぶ看護師の役に立つことができるよう教育・研究を続けていこうと思います。