母の背中

2021.12.01
河本 秋子
  • 2021/12
  • 看護師・保健師:河本 秋子

 夜中に目を覚ますと、私の隣にいるはずの母の姿はなかった。目をこすりながら母の姿を探すと、机に向かって勉強している母の背中が飛び込んできた。母の気を引きたく、毎晩のように色々と試してみたものの、母が私の方を振り向いてくれることはなかった。ある日、「お母さんなんて、大嫌いと」と泣きながら大声で叫んだ。それでも、母はいつも通り、淡々と勉強をしていた。それから数年が経ち、私も小学校の中学年になっていた。ある時、母の職場に連れて行ってもらい、休憩室で母の仕事が終わるのを待っていた。休憩室を抜け出し患者さんとおしゃべりをしていると、母が現れ私はとても驚いた。白衣の天使がそこにいた。患者さんたちは、「婦長さんの娘さんだったのか・・・」、「お母さんのお陰で、みんな元気になってるんだよ。」と口々に言ってくれた。私は、母がなぜ勉強をしていたのか、そして、日々どうして帰りが遅いのか、初めて理解した。

 母に強く勧められ、看護の道に進むことになった。看護師になりたいという思いが特別に強いわけでもなく、あまりに不真面目に看護と向き合う私に、母は一言「看護を極めなさい」と言った。私は、その言葉を胸に、臨床で看護師として働き、その後、企業で保健師として働き、その間に修士課程、博士後期課程で勉強し今に至る。

 母の背中を追っていた頃から、何十年経過したのでしょうか。今は、私が母になり、私の子ども達が休日も夜も机に向かう私の背中をみています。子ども達から見る私はどのように映っているのでしょうか?そんなことを考える間もなく日々の時間が流れてきました。「ママ~」と泣きながら起きてきた子ども達も5歳を迎え、今は、机に向かう私の姿を見ると、「ママ、お仕事頑張ってね!」と言ってくれます。その姿を見て、私も母と同じ道をたどっている不思議な運命を感じます。

kawamoto.png 妊娠・出産・育児により、私自身が看護職の方々にお世話になる機会を得ました。保健師さん、助産師さん、看護師さんに、患者として支援を受け、看護職の仕事の尊さを感じたことで、自分が行ってきた看護や自分が感じてきた看護への思いを初めて肯定することができました。そして、育児をしながら仕事をしている今、自分の経験の全てを活かすことが出来る看護の仕事に強い魅力を感じています。また、看護の未来を担う学生さんとの看護教育を通した関わりにも強い魅力を感じています。

 看護と向き合い続け、30年近い月日が経ちました。看護に向き合う私の背中を見て育っていく子ども達が、どんな未来を歩んでいくのか楽しみでなりません。きっと、私の母も、私が歩む未来を楽しみに、私に母の背中を見せてくれていたのではないかとふと思う今日この頃です。

看護コミュニティ

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