10年前、私は聖路加国際大学に入学しました。
手に職は持っていた方がいいだろう、そんな漠然とした理由で入学を決めた私にとって、聖路加での日々は衝撃の連続でした。授業や演習で怒涛の日々はもちろん、1年生の時に初めて行った病院見学実習では、自分の想像を有に超えた過酷な看護師の実務に愕然としたのを覚えています。看護師業務の現実に衝撃を受けた私は、なんて浅はかな理由で入学してしまったのかと、当時真剣に退学を考えた程です。
そんな私がその場に踏み留まることができたのは、学内で定期的に設けられる講演会や、授業で出会う卒業生の存在でした。臨床現場の経験の後に研究者になった人、海外でNPを目指す人、看護師の経験を生かして企業で働く人...。当時、看護学部=臨床現場の看護師という狭い価値観でしか世界を見ていなかった私にとって、「道は一つじゃないんだ」と救われたような気がしました。
卒業後、私は臨床現場に進みました。1年生の時、絶望した過酷な看護師の業務ですが、大学での4年間の学びを経て、どのフィールドに進むにしても、実習や机上では学ぶことのできない世界を見てみたいと思ったからです。思い切って飛び込んでみた臨床現場で働いた日々やそこでの出会いは、私にとって何にも変え難い大切な経験となっています。
臨床現場の経験は、教育や社会学に関する研究をしたいと思うきっかけとなり、大学院に進学、そして今年、母校で教員として働き始めました。退学しようと考えた10年前には、全く想像し得なかった未来です。だからこそ私は、常に柔軟な価値観を持ち、変化を楽しみながら、あらゆることに挑戦していける人でありたいと思っています。
もし今、看護の世界にきたことに悶々している学生さんや、この道が向いているのか悩んでいる学生さんがいたら、心からお伝えしたいです。皆さんが将来活躍できるフィールドは想像以上に広いです。そして今悩んでいること、苦しんでいることは、間違いなく変化を遂げていきます。どうぞ広い価値観を持ち、何よりも今を楽しみながら学んでください。