知っておいてほしい統計

2022.12.01
奥山 絢子
  • 2022/12
  • 看護師・保健師・助産師:奥山 絢子

 皆さん、はじめまして、この4月から聖路加国際大学で教員をしている奥山です。私はこれまで多くの人に支えていただきながら、仕事をしてきました。本日は、がん疫学分野での勤務経験から、国民の皆様、そして看護職にも知っておいてほしいなと思うがんの統計についてお話をさせていただきたいと思います。

 がん医療を評価する一つの指標として、生存率があります。一般に診断後あるいは治療後5年経過したときの生存率が治癒の目安とされています。この生存率について、日本での最新(執筆時点2022年11月)の大規模調査データとして、国立がん研究センターのがん情報サービスで公開されている院内がん登録生存率集計があるのをご存知でしょうか。院内がん登録とは、全国の国が指定するがん診療連携拠点病院等を中心にがん診療を担っている病院から集めている情報です。悉皆性のある全国がん登録よりも国際病期分類などより詳細ながん情報を収集しています。国立がん研究センターにおいて、この院内がん登録を用いて、これまでがん患者さんの3年、5年、10年生存率を公表し、そしてより情報を活用していただけるように院内がん登録生存率集計結果閲覧システム(https://hbcr-survival.ganjoho.jp/)を開発してきました。現在、胃がん、大腸がん(結腸・直腸がん)、肝細胞がん、肝内胆管がん、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、乳がん、食道がん、膵臓がん、前立腺がん、子宮頚がん、子宮体がん、膀胱がん、胆のうがんなど主に上皮性由来の25のがんの生存率について、病期、年齢、性別、手術の有無別に生存率を調べることができます。

 今日はそんなデータの中から、がんの長期予後、10年生存率についてみてみたいと思います。全国の281施設で2009年にがんと診断された約29万件のデータを解析した結果をみると、全体で10年相対生存率は60.2%(平均年齢は66.8歳)でした。つまり、がんが見つかった人のおよそ6割が10年後も生存していらっしゃることがわかります。このデータは2009年にがんと診断された方のものですので、日々治療が進歩していることを考えると、現在はもう少し改善していることが期待されます。

 同じ病期(ステージ)でもがんの種類によって違うのはなぜでしょうか?これには、がんの進行する速さの違いや治療の難しさなどが影響していると考えられます。例えば、前立腺がんは男性が罹患するがんとして多いがんですが、比較的ゆっくりと進行する病気です。一方、小細胞肺がんは増殖速度が速く、転移しやすいため、生存率が低い傾向にあります。また病期が進むと治療が難しく、また再発や転移のリスクが高くなり、生存率が低くなります。

 国では科学的な根拠があるがん検診、つまりは国民のがんによる死亡を減らすことができるとして乳がん、子宮頸がん、大腸がん、胃がん、肺がんの5つのがん検診を推奨しています。これらのがん検診を皆さんが受診することで、日本全体でのがんの死亡率を減らしていくことができると言われています。

 こうした統計からみてよりよく生きるためのヒントを考えてみたいと思います。今回ご紹介した調査結果から、がん全体の10年生存率は約60%という高い数字であることがわかります。つまり、がんを患っても、長い間、生きられる可能性が高くなってきています。もちろん、まだ治療が難しいがんもあり、そうしたがんへの治療方法の開発が望まれます。二人に一人ががんになると言われる中で、がんと診断されたあともその方が少しでも自分らしく充実した生活を送れるように、医療関係者だけでなく、社会全体で患者さんや家族を支えていくことが重要ではないでしょうか。外来での化学療法等も増えています、仕事や育児を続けながら治療されている方もいます。がん患者さんだけではなく様々な病気等を抱えながら生活している人もたくさんいます。私たち一人一人がほんの少しでも周りの方々を思いやることを心がけることで、皆が暮らしやすい社会になるとよいなと思います。

*相対生存率とは、がん以外の死因による死亡の影響を調整した生存率です。

看護コミュニティ

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