習慣を大切にすることの尊さ

2023.04.01
谷口 由祈
  • 2023/04
  • 看護師:谷口 由祈

はじめまして。私は看護師として病院に勤務して今年度で9年目になりました。今回は、私が母と祖母との関わりを通して考えたこと、そこから日々の看護について思ったことをお話させていただきます。

私には90歳になる祖母がおり、長く認知症を患っておりました。認知症の進行により自分の力で歩いたり、話したりすることが出来なくなり、一緒に住む私の母が介護をしていました。日々入院している患者さんを見ている私からすると、祖母が歩いたり、トイレに行ったりする事は非常に難しいことだろうと思うような身体状態でした。しかし、母の懸命な介護により、祖母は好きな花柄のシャツを着て、毎日歩いてトイレに行き、1時間かかっても口から大好きなお肉を食べて暮らしていました。祖母にとって、できる限り今までどおりの生活を続けることは、自立して人のために生活してきた祖母らしさがありました。今月祖母は亡くなり、天国に行きました。祖母の口から思いや希望を聞くことは叶いませんでしたが、日々の反応や表情から、とても心地のよい時間だったのではないかと思えました。

私はいま脳神経外科の病棟で働いています。脳血管疾患の患者さんはある日突然、脳血管の障害により動けなくなり、意思疎通が難しくなることがあります。今までの日常や社会が、ある日突然奪われてしまうことは患者さんやご家族にとって大きな衝撃であり、辛い体験となります。自ら意思を伝えられなくなった時、その人の思いや希望を患者さんや、ご家族と共に考え抜き、その人らしい生活をサポートすることが看護師の役割です。失語のある患者さんがシャワー介助によって「気持ちいい」と言える事がありますし、看護師の声かけでリハビリ意欲のない患者さんが生活の目標を思い出しリハビリに取り組んでくれるようになることもあります。習慣一つでも、その行動そのものの意味を超える力があると思います。母と祖母の姿をみて改めて、その人らしさや習慣を、その人と同じように大切にする事の尊さを実感しました。

最近は、コロナ禍で家族との面会が制限されているため、患者さんの今までの生活や習慣を知ることの難しさを感じる事があります。さらに病院での日々は、治療以外にも消灯は21時、起床は6時、食事は9時、シャワー浴は週に〇回・・・といったように、決められたことが非常に多くあります。患者さんの安全が第一の現場であり、医療の公平性の視点からも必要なことですが、医療者中心に考えてしまいやすい環境だと思います。入院生活の一つひとつにその人らしさがあり、入院もその人の人生の物語の中の一部であることを当たり前のようで忘れてしまうこともあるのです。そういったときは、その人らしさを捉え切れなかった、その人の人生と向き合う事が出来なかったなと思い落ち込むこともあります。落ち込みたくないあまり、やり切れなかった事をそのままにたり、向き合わないようにして、誤魔化したりしてしまう自分にも気づきます。しかしこのような自分を知り、患者さんと真摯に向き合った時、看護のやりがいを感じる体験をします。私は祖母と母とを思い出し、立ち止まりながら患者さんの習慣、患者さんらしさを大切にできる看護師であり続けたいと思いました。

4月から看護の道を共に歩む仲間が増えました。看護は人が辛く、苦しく、未来を見て明るく前向きになれない時も、そばに寄り添い、時に共に戦える誇り高い仕事だと思います。この素晴らしい仕事を皆さんとできることを嬉しく思います。

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