大学時代は心理学を専攻し、目には見えない人の心を科学的に可視化して分析することの面白さを学びました。当時所属していた大学の周辺には大規模病院が多数あり、現役の看護師の方々が社会人学生や科目等履修生として心理学を学びに来ていました。職場で管理職に就くために学位が必要であったり、患者さんとの関わりの中で心理学に興味を持ったりと、学ばれている理由は様々でした。その頃は看護系の四年制大学や大学院の数が少なく、看護師が看護系大学等でリカレント教育を受ける機会が少なかったことも、要因のひとつであったかもしれません。大学で学んだばかりの生涯学習の知識とも重なり、働きながら学び続ける看護師さん達の姿は、社会人として理想的にみえました。そのような学習環境でしたので、看護師という職業に興味・関心が湧くのは自然なことでした。
その後、私自身も看護師を目指すことを決意し、大学卒業と同時に自宅からほど近い公立の看護専門学校に入学しました。大学時代に比べて学習内容も学習進度もかなりハードではありましたが、友人や先生方にも恵まれ、とても楽しい学生生活を送ることができました。卒業後は、内科・小児科混合病棟の看護師として約10年間働きました。当時の夢はCN(認定看護師)かCNS(専門看護師)の資格を取得することでしたが、混合病棟という病棟の特徴もあり、自分の専門領域をなかなか決められずにいました。そんな頃、当時の上司であった看護局長や母校の恩師のご配慮で、看護教育に携わる機会をいただきました。
病院で教育専従看護師として現任教育に携わらせていただき、また母校の看護専門学校では専任教員として基礎教育に携わらせていただく中で、看護を言葉として表現することの難しさを知りました。自分自身が看護を体得することと、看護を人に伝えることは、同じ看護であっても全く異なっていました。新人看護師や学生に伝えるべき「看護の核」となるものは何であるのか、患者さんにとって「より良い看護」を考えるとはどういうことであるのか、なかなか自分の中に答えが見出せず、一念発起して社会人学生として大学院を受験することを決めました。
大学時代に出会った看護師さん達はとてもスマートに社会人学生生活を送っていたように見えたのですが、実際の社会人学生生活は、想像以上に大変でした。それでもフルタイムで働きながら学生生活を継続できたのは、指導教授・職場の上司・同僚の理解や協力、そして家族の支えのおかげであったと深く感謝しています。大学院では小児看護学を専攻し、現任教育と基礎教育での教育経験を活かして、「小児看護学実習における臨床と教育の協働」をテーマに修士論文を書くことを決めました。そして研究計画書を書き始めた矢先、Covid-19感染拡大が日本全国に広がりました。臨地での実習が中止となり代替学習が展開される中で看護教員として考えたことは、やはり看護を言葉にすることの難しさでした。しかし同時に、大学院入学前と比べて看護を言葉にする力が格段に向上している自分自身にも気がつきました。
この春から、母校で教育・研究に携わる機会をいただきました。そして相変わらず、社会人学生も続けています。現在の研究テーマは、小児看護のコンピテンシー、そして小児看護の臨床判断です。小児看護領域の教育・研究に携わる看護師の一人として、これからも「看護の核」や「より良い看護」を探求し、看護を言葉として表現し続けていきたいと思っています。