脳神経疾患看護の魅力に惹かれて

2024.06.01
小林 由紀恵
  • 2024/06
  • 慢性疾患看護専門看護師(ニューロサイエンス看護):小林 由紀恵

20年以上にわたり脳神経疾患看護を続けていますが、折に触れて看護の力を実感することがあります。最初に看護の力を実感したのは、看護学生時代の実習で受け持った脳神経疾患患者との出会いでした。その患者さんは脳腫瘍を患っており、話すことや自ら身体を動かすこともできず、ただベッドに横たわっている状態でした。私はその姿を前にして、どう接していいのか、何をすればいいのか全くわからず、手も足も出ないまま、患者さんの傍らで立ち尽くしていました。その様子を見ていた実習指導者は、私にこう質問しました。「〇〇さんってどういう人なんだろうね?何をすることが好きだったんだろうね?」。私は、その問いかけに答えることができませんでした。そこで初めて、受け持ち患者さんを一人の人間として見ていなかったことに気づかされました。ご家族の情報から、受け持ち患者さんはお孫さんと遊ぶことが大好きであり、いつも演歌を聴いていたことがわかりました。その後、音楽を聴く時間を作ったり、お孫さんが面会に来る際にはお化粧をして髪をセットし、普段の姿に近づけるような看護へと変化し、ご家族の笑顔が増えて反応も変わりました。この経験を通して、わたしは次第に脳神経疾患看護の魅力に惹かれるようになりました。

年月が経った今でも患者さんの発症前の生活を知り、普段の姿に少しでも近づけられるような看護を実践できるよう努めています。現在はそれに加えて、脳神経疾患により失われた生活動作を再び取り戻すための看護、すなわち患者さんが寝たきりにならないように座位姿勢を取る、歯を磨く、顔を拭く、髭を剃るなどの日常生活に不可欠な動作を、麻痺している手足も使いながら習得していく看護に力を入れています。患者さんが自分の望む生活を取り戻すことができるように支援することが私の目指す看護です。看護学者であるパトリシア・ベナーは、「生きるよりどころとなっていた意味を多々奪う点で、あらゆる病気の中で最も人をくじけさせる神経系(脳神経)の損傷という病気の場合でさえ、新しい意味を見出すことはできる。それは常に可能なのである」と述べています。私はこの言葉に深く共感します。脳神経疾患によって多くの能力を失っても、患者さんが新しい意味や価値を見出せるように支援することが看護師の役割であり、それが脳神経疾患看護のすばらしさだと思います。今年から看護教員となり、現在は脳神経疾患看護の発展を目指し、脳神経疾患患者さんの生活再構築に関する研究に取り組んでいます。看護師から看護教員へと立場は変わりましたが、これからも脳神経疾患看護の持つ力を信じ、看護の力が最大限に発揮できるよう日々努力を重ねていきたいと思います。

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