第5話 転院編

2015.03.17

同室のおばあちゃんの転院 ―どうして転院しなければならないの?―

花子さんの入院している部屋には、寝たきりのおばあちゃんが一緒に入院しています。
おばあちゃんは、もう3ヶ月近く入院しているらしいのです。

この日、花子さんが検査を終えて部屋に戻ってくると、おばあちゃんの姿がありません。

あらっ?!おばあちゃんがいないわ!
おばあちゃん、どこ行っちゃったのかしら?

知らなかったの?前から先生や看護師さんと転院のことを相談していたのよ。それでおばあちゃんは今日、他の病院に転院したのよ。

転院?おばあちゃん、この病院は気に入ってるみたいだったし、歩いたり、車イスに乗ったりって、リハビリを始めたところだったのに...。何でですかねぇ?

それにね、いくつかの理由があるのよ...。

理由その1 診療報酬

現在の診療報酬*の仕組みでは、高度急性期機能や急性期機能を担う病棟であっても、入院90日を超えた患者さんには療養病棟と同等の診療報酬体系が適応されるなど、病院が治療のためにどんなに薬を使ったり検査したりしても、その患者さんの診療報酬が下がるということになっています。

*診療報酬
病院などの医療機関が行った医療サービスに対する対価として医療機関が受け取る報酬のことです。

これには、急性期の治療を行う病棟と、回復期や慢性期の治療を行う病棟の機能を明確にする、という理由があります。(ただ、急性期病棟から転院する患者さんを受け入れる、リハビリテーションのための病棟や長期療養のための病棟がまだまだ見つかりにくいという現状もあります。)

理由その2 病棟の機能

病棟の機能には、高度急性期機能、急性期機能、回復期機能、慢性期機能があります。

高度急性期機能・急性期機能の病棟は、急性期の患者さんが、状態の早期安定化に向けて医療を受けられる病棟です。
回復期機能の病棟は、急性期を経過した患者さんが在宅復帰に向けて医療やリハビリテーションを受けることができる病棟です。
慢性期機能の病棟は、長期にわたり療養が必要な患者さんが入院できる病棟です。

今回のおばあちゃんは、足を骨折し急性期機能の病棟で治療を受けていました。
しかし、おばあちゃんは高齢でまだ歩行が安定していないため、そのまま自宅へ帰るよりも、もっと手厚いリハビリテーションを受けておばあちゃんやご家族の方が安心して自宅で生活できるように転院を勧めたのです。
転院先はおばあちゃんと家族、主治医、受け持ち看護師、MSW(医療ソーシャルワーカー)と相談して決めました。

もし、転院先に困ったら、こんな相談窓口があるのよ。

もし転院先に困ったら?

かかりつけの医療機関で

医療ソーシャルワーカーという職種をご存知ですか?
医療ソーシャルワーカーは、社会福祉の専門家として、患者さんに関わる経済的、社会的、心理的な悩みなどの相談を受け、面接等を通して問題解決や、地域の医療・保健・福祉機関と、連絡をとりあい、社会復帰や在宅療養への準備などのサポートも行っています。
医療ソーシャルワーカーは、Medical Social Worker(メディカル・ソーシャル・ワーカー)を略してMSWといったり、広い意味でケースワーカーと呼ばれたりもしています。
医療ソーシャルワーカーは、どこの病院にもいるという訳ではありませんが、近年は医療ソーシャルワーカーを配置する病院も増えており、病院では主に「医療相談室」や「医療社会事業部」「地域連携室」などに勤務しています。
ご相談がある場合には、医師や看護師から医療ソーシャルワーカーに連絡をしてもらうか、患者さんやご家族が直接に相談を申し込むことも可能です。
転院については、患者さんのその時の病気や身体の状態にあわせた医療機関や施設を選んでいく必要があるため、まずはおかかりの医療機関の相談窓口を活用してみましょう。

<引用・参考文献>
http://www.tokyo-msw.com/

退院調整

このように、医療機関からの退院後も病気やけが、障害とともに生活していくことになる患者の退院に向けた環境を整え、安心して自宅で療養を継続したり、退院後の生活を送れるように準備することを、退院調整といいます。
患者やその家族の意向を大切にして、地域のその他の医療機関や、介護事業所、訪問看護ステーションなどと連携して行います。
退院調整看護師と呼ばれる、この仕事を専門的に担う看護師もいます。

その他の相談場所で

東京都の場合、東京都保健医療センター「ひまわり」で、電話相談やホームページ上で条件に該当するような医療機関の検索をすることができます。
また、居住地の役所、保健所・保健センター、地域包括支援センター等に相談することもできます。

<引用・参考文献>
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/

それじゃあ、おばあちゃんは、もっとしっかりリハビリをするために転院したのね。元気で歩けるようになるといいなぁ。

地域包括ケア病棟

2014年度の診療報酬改定により「地域包括ケア病棟」という新たな機能を持った病棟が新設されました。地域包括ケア病棟には、①急性期病床からの患者さんの受け入れ、②在宅等にいる患者さんの緊急時の受け入れ、③在宅への復帰支援という3つの機能があります。
地域包括ケア病棟へ入院される患者さんの例としては次のようなケースがあります。たとえば、急性期医療が終了した後で、すぐに在宅や施設へ移ることに不安のある患者さんです。そのような患者さんに対して、在宅復帰に向けたリハビリテーションや在宅での療養準備などを行います。また、在宅療養中の患者さんの病状が悪化してしまった場合に、在宅医から病院へ依頼し入院をすることもあります。患者さんが在宅や施設など、生活の場へ復帰することを支援するための病棟と言うことができるでしょう。

地域包括ケア病棟に入院された場合、入院費の計算方法が通常とは異なり、リハビリテーション・投薬料・注射料・簡単な処置料・検査料・画像診断料・入院基本料などの費用全てが含まれた定額払いとなります(注:治療内容によっては自己負担金が増額する場合もあります)。地域包括ケア病棟入院料(入院医療管理料)には2種類あり、地域包括ケア病棟入院料(入院医療管理料)1を算定している病棟では、1日当たりの入院費は25,580円(診療報酬点数:2,558点)、地域包括ケア病棟入院料(入院医療管理料)2では、20,580円(診療報酬点数:2,058点)*となります。地域包括ケア病棟として届け出るためには、看護配置や専従のリハビリスタッフの配置、在宅復帰率*などについて、決められた要件を満たす必要があります。

入院期間は状態によって異なりますが、診療報酬上60日が限度とされています。

* 在宅復帰率:退院後に在宅(自宅・グループホーム・有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅等)へ移る患者の割合

** 地域包括ケア病棟入院料(入院医療管理料)2では、基本の点数に加えて、看護職員・看護補助者の配置や、他の急性期病棟(自院・他院を問わず)、介護施設、自宅等から入院または転棟してきた患者への加算が加えられることもあるため、費用が異なる場合もあります。

転院についてお分かりいただけたでしょうか。

> 第4話はこちら
> 第6話はこちら

看護コミュニティ

ページ評価アンケート

今後の記事投稿・更新の参考にさせていただきたいので、ぜひこの記事へのあなたの評価を投票してください。クリックするだけで投票できます。

Q.この記事や情報は役にたちましたか?

Q.具体的に役立った点や役に立たなかった点についてご記入ください。

例:○○の意味がわからなかった、リンクが切れていた、○○について知りたかったなど※記入していただいた内容に対してこちらから返信はしておりません

最大250文字