小児慢性特定疾患治療研究事業

小児慢性特定疾患治療研究事業による登録人数

1998 年度から全国で使用されている小児慢性特定疾患(小慢疾患) 10 疾患群の医療意見書、及び成長ホルモン治療用意見書の内容は、電子データとして厚生労働省に 2003 年 11 月中旬までに事業報告が行われ、延べ 534,788 人分の資料が疫学的、縦断的に解析された 3、8) 。これらは、治療研究事業として研究の資料にすることへの同意を患児の保護者から得ている。また、この電子データには、自動計算された患児の発病年月齢や診断時(意見書記載時)の年月齢は含まれるが、プライバシー保護のため、患児の氏名や生年月日、意見書記載年月日等は自動的に削除されている。

先進国の保健・医療制度は、各国で全く異なるため、小慢事業は、日本以外に存在しない。国際的に極めて独特の小慢事業を利用して、日本全国の小慢疾患の発生頻度や有病者数等を推計した。

1.年度別登録人数

1998 年度、 99 年度、 2000 年度小慢事業の資料は、全ての実施主体(都道府県、指定都市、及び中核市)から事業報告があり、全国延べ各々 106,790 人分、 115,893 人分、 120,652 人分であった。

01 年度は、全国 87 カ所の実施主体のうち 82 カ所から事業報告があり、延べ 109,610 人(成長ホルモン治療用意見書提出例 9,350 人は重複して算出)分であった。 02 年度は、全国 89 カ所の実施主体のうち 59 カ所から事業報告があり、延べ 81,843 人(成長ホルモン治療用意見書提出例 7,040 人は重複して算出)分であった。

1999 年度以降の登録は、 98 年度に比較して、全般的に登録数がやや増加し、また明らかなコンピュータ入力ミス等、不明な内容が減少していた。したがって、小慢疾患の全国的な実態をより反映した、より正確な資料となっていた。

2.疾患別登録人数

2000 年度全国で 1,000 人以上登録された疾患及び登録人数は、都道府県単独事業も含めて多い順に、成長ホルモン分泌不全性低身長症 12,664 人、気管支喘息 * 11,878 人、白血病 6,680 人、甲状腺機能低下症 5,474 人、川崎病 * ( 冠動脈瘤、冠動脈拡張症、冠動脈狭窄症を含む ) 4,283 人、1型糖尿病 3,740 人、脳 ( 脊髄 ) 腫瘍 3,631 人、甲状腺機能亢進症 3,243 人、ネフローゼ症候群 * 3,210 人、血管性紫斑病 2,773 人、神経芽細胞腫 2,699 人、慢性糸球体腎炎 * 2,536 人、心室中隔欠損症 * 2,408 人、思春期早発症 2,248 人、若年性関節リウマチ 2,105 人、先天性胆道閉鎖症 1,930 人、悪性リンパ腫 1,388 人、血友病A 1,373 人、水腎症 * 1,073 人、先天性副腎過形成 1,071 人、慢性甲状腺炎 1,048 人、ターナー症候群 1,029 人、2型糖尿病 1,019 人、網膜芽細胞腫 1,008 人であった ( * を記した疾患は、 1 か月以上の入院が対象であるため、登録人数は実人数より少ない) 8) 。

一部の疾患は、疫学的、縦断的に解析したり、患者・家族の会から依頼された集計を行った。

3.非登録者の問題と情報提供

小慢事業の登録人数には、市町村事業である乳幼児医療費助成制度利用者、また、小慢事業への非同意者は含まれていない。 2002 年度は、一部の実施主体から疾患群毎の非同意者数の報告があり、その割合は、全体として 370 / 14,257 = 2.6 %であった 3) 。

非同意者に関しては、患児家族に十分に説明して理解と同意を得られるようにしたい。その一つの方法として、個人情報はすべて除いた上で研究班の成果をホームページ( 厚生労働科学研究成果データベース「 https://mhlw-grants.niph.go.jp/ 」、国立成育医療センター研究所成育政策科学研究部「 http://www.med.kyoto-u.ac.jp/organization-staff/research/doctoral_course/r-123/ 」、日本子ども家庭総合研究所「 http://www.boshiaiikukai.jp/index.html」 )に公表した。頻度の比較的高い疾患に関しては、男女別、年齢別、合併症の有無別、経過別の登録人数も掲載した 8) 。

今後は、その充実とともに、治療研究事業であることを説明するパンフレットを保健所等に常備する等の工夫も望まれる。

4.小児慢性特定疾患治療研究事業の有用性

10 疾患群ごとの解析結果に関しては、高い登録率と登録データの精度の向上によって小慢事業の疫学的な有用性が高まっている。

例えば悪性新生物では、従来の全国小児がん登録と比較して、脳神経外科医の申請が多い脳腫瘍、整形外科領域の骨肉腫、 Ewing 腫瘍の頻度が高かった。欧米諸国との比較では、神経芽腫の頻度が高く、悪性リンパ腫、特にホジキン病が低かった。近年、小児の悪性新生物の治療成績が大きく向上した背景として、小慢事業の支援により全ての子どもが十分な治療を受けられることが大きな要因としてあげられる 8) 。

フェニルケトン尿症は推計 88 %が小慢事業に登録されており、先天性代謝異常は全国規模の疾患別患者数をほぼ把握できた。また、全国レベルで、 Ig A腎症、若年性関節リウマチ、糖尿病等の貴重な資料を得られた 8) 。