小児慢性特定疾患治療研究事業

今後の小児慢性特定疾患治療研究事業

1.法制化

小慢事業は、今 秋に児童福祉法に規定、法制化され、 2004 年度末から実施される予定である。その場合、今までの補助金事業とは異なり、事業の安定化が将来的に図られる。

法定化条文案は、「都道府県は、厚生労働大臣が定める慢性疾患にかかっていることにより長期にわたり療養を必要とする児童又は児童以外の満二十歳に満たない者(政令で定めるものに限る)であって、当該疾患の状態が当該疾患ごとに厚生労働大臣が定める程度であるものの健全な育成を図るため、当該疾患の治療方法に関する研究その他必要な研究に資する医療の給付その他の政令で定める事業を行うことができる。」であり、細部は、厚生労働省から通知される予定である。

今後の主な具体的改善点等は、以下の通りである。

*対象年齢は、従来の原則として 18 歳未満から、継続申請の場合は 20 歳未満まで延長される。

* 1 か月以上の入院を前提とする疾患群はなくなり、全ての対象疾患は入通院とも対象となる。

* 2004 年度の国の予算は、前年度比 31.7 億円増額されて 128.2 億円となり、対象疾患や対象者の見直しを行う(参照:A対象者)。そして、 2004 年度新規事業の福祉サービスとして、保健所等において、慢性疾患の子どもの養育者等が日常生活を送る上での不安や悩みを軽減させるため、小慢疾患児を養育していた者等による相談を行う。また、患児に対する日常生活用具(車いす、特殊寝台、入浴補助具等 13 品目)の給付を新たに行う。

*ただし、他の公費負担医療との均衡を考慮し、患児家族から所得に応じた費用徴収を導入する。

2.対象者

対象患児の公平性を保つため、また、限られた国の予算を適正に運用できるように、対象疾患を全面的に見直す。ことに近年の周産期医療の進歩に伴って長期生存が可能となった慢性疾患等を追加する。

疾患群として慢性消化器疾患を追加し、ぜんそくを慢性呼吸器疾患として対象疾患を広げ、悪性新生物は、 ICD-O コードを採用して組織と部位を明確にして登録する。

対象者は重症患者(治療を中止した場合に重症になる患者も含む)であることを明確にするため、原則として全ての疾患で対象者の基準を設定する。ただし、急死する可能性の高い重症な調律異常、一部の先天性代謝異常などは、疾患名のみで対象とする。

3.研究

近年のIT技術の進歩に対応した コンピュータ 登録・管理を実施して小慢疾患の登録・管理方法を改善し、従来より正確に、より詳細に、また経年的に登録数を増やし疫学的、縦断的に、全国的な集計・解析を実施する。

小慢事業の法制化に伴い、医療意見書は、対象の可否を判定するため治療内容の一部を記入必須項目にする等改訂されるので、より専門的な解析が可能になる予定である。 2006 年には、その医療意見書に基づく全国的な資料を中央が入手可能となる。

さらに今後は、医療機関名の中央への報告を求めているので、登録されている全ての疾患に関する二次調査が可能となり、全国各地域の現場の状況を中央がより正確に把握可能となる。そして、同一疾患の患児を治療している医療機関どうしの全国的なネットワーク、例えばメーリングリスト等を作成し、医療機関どうしで必要な情報交換を即座に行えるシステムを構築できる。

また、国立成育医療センターに登録センターをおく登録システムが構築され、現在よりデータベースの精度管理を向上させて、長期的登録・管理を行う予定である 9) 。 以上によって、今後、日本の小児医療の標準化が図られることが期待される。

4.情報提供

集積される貴重なデータは医療者のみでなく、患児やその家族にも成果を還元する。 個人情報をまったく含まない結果は、研究報告書やインターネット等で公開する。また、国民の医療費負担の適正化が叫ばれる中で、より効率的で公平な医療費助成のあり方が行政上可能となるような資料を作成する。そして、小慢事業で得られる貴重な電子データは、その科学性と倫理面に問題のないことを確認した上で、誰でも利用できる体制を整える予定である 9) 。