▲入院中の父が突然、幻覚・記憶喪失に。せん妄を患った父親の介護体験記
主な対応と工夫 日常生活の工夫
室内全体の環境整備へのヒント 認知症の方の食事と食事介助
認知症の人は,自分で食事を摂ることがだんだん困難になってきます。

認知症が重度になるにしたがって自分で食事を摂ることが困難になっていきます。つまり、自立して一人で食事が摂れている状態から、声かけによる指示が必要な段階、食事摂取を他人に依存しなければならない状態(身体的な介助が必要になる)へと食事行為の自立の低下が進んでいきます。また、この自立の程度と同時に摂食・嚥下機能(口に食物を摂り込むことや飲み込むこと)が少しずつ低下していくことが多いです。この摂食・嚥下困難・障害は、食物摂取量が低下や体重減少が生じ、低栄養状態になり、少量の食物を誤嚥する危険を増し,誤嚥性肺炎や生命の危険にもつながる重要な問題となります。

まずは、認知症高齢者にとっての食事、食事介助のポイントから、症状別の対応など必要に応じて参考にしてみて下さい。
認知症高齢者にとっての食事、そして食事介助のポイント
認知症の高齢者の、食べること(食事)の意味や食事の介助についてのポイントをご紹介しましょう。
<認知症高齢者にとって食べること(食事)の意味は>
・食事は、体力と生命維持のための栄養摂取
・生活の中での大きな楽しみ・満足感・充足感・安心感につながる
・その人らしさ(個人の食体験)のあらわれ
<認知症の高齢者にとって求められる食事介助の基本>
食事は、毎日の生活で欠かせないものであるゆえに、介助を必要とする認知症高齢者にとって、より質の高い介助が求められます。ただ食べていただくだけの行為ではなく、食事をおいしく、満足感に通じる介助が必要になります。
以下のポイントを下記に細かく説明してありますので、それぞれの状況に応じて参考にしてみてください。
おいしく食べられる介助
心地よく・リラックスできる介助
信頼感・安心感がもてる介助
楽しみとなる介助
満足感のもてる介助
身体状態によりよく対応できる介助
認知症高齢者の食事に関する症状別の介助
認知症の高齢者の中には、症状において様々な介助が必要になります。
当人の状態、症状にあわせて参考にしてみて下さい。
食事を拒否する場合の介助
自分から食べようとしない場合や、食事への意欲がない場合の介助
食事中に、口の中に食物が残ったままで眠ってしまう方への介助
おいしく食べられる介助
◎ バランスのとれた食事をこころがけましょう。
たんぱく質→少なくとも1食に肉や卵、魚、チーズ、豆類(豆腐・納豆など)から1つ摂りましょう。
水分 積極的に水分を摂るようにしましょう。好みのものを摂りいれましょう。
野菜・海藻類 不足しがちですので、毎食欠かさないように。食物繊維の多いにんじんなど根菜類を意識して摂るようにしましょう。
果物 ビタミン・ミネラルの補給になりますので、毎日1回は摂りましょう。
牛乳・乳製品 カルシウムの補給のために毎日コップ一杯の牛乳または、ヨーグルトを摂りましょう。
塩分 摂りすぎないように、塩やしょうゆは控えめにしましょう。

<食べ物の調理の工夫方法>
食べやすいように、軟らかく調理しましょう。野菜は煮たほうが食べやすいでしょう。
ぱさぱさしたものは、むせたり、つかえたりしやすいので、汁気を含ませ、軟らかく調理しましょう。
汁物はむせやすいので、少しとろみをつけるとよいでしょう。
料理の温度は、多少加減しつつも、熱いものは熱く、冷たいものは冷たくしましょう。
脂っこいもの、塩からい味付けは控えましょう。
1口で食べられる大きさ、手でつまんだり、はしやスプーンでとりやすい大きさに工夫しましょう。
色合い、形など目で楽しませたり、季節の香りを添えたりして食欲をそそる工夫をしましょう。
<介助の工夫>
・1口1口の食べる速度やペース・リズムをその方に合わせてましょう。
・時間がかかってもせかさない、急がせないようしましょう。
・必要以上に大声で話しかけないようにしましょう。
心地よく・リラックスできる介助
<食事時の姿勢>
上体が起こせるときは、できるだけ座位にして、ギャッジベッドではないときは、背中にクッション置いて上体をささえます。
飲み込み時にむせたり、誤嚥を防ぐために、頭と肩はすこし前かがみにして、あごを下にひきぎみにして胸につけるようにします。
信頼感・安心感がもてる介助
食事に関係する快い会話をこころがけましょう。
他の人の食事を食べてしまっても、しからないようにしましょう。
楽しみとなる介助
<食事環境>
・車椅子を利用しても、家族と一緒に食卓について食事をするようにしましょう。
・ベッドで食べる場合も、家族の食卓が見える場所で、家族の話し声が聞こえるようにしましょう。
<食事時間>
毎日の生活の中で食事は楽しみの一つです。食事は、生活のリズムを保つためにも、食事の時間を一定しましょう。
満足感のもてる介助
おかわりをするときには、小さい茶碗にしたり、大盛りにして満足させてあげましょう。
身体状態によりよく対応できる介助
<食器や食事用具>
・できるだけ自分で食べてもらうように、食器やスプーン、はしなどの食事用具がたくさん市販されていますので、障害の程度にあった、軽くて持ちやすい、清潔で、落としても割れにくいものを選ぶとよいでしょう。
食事を拒否する場合の介助
主な原因には
食事に関心が持てない、食事環境に変化が多い、食事やその場に不快感がある、
食事内容に不安がある、食事行為に恐怖がある、食事にストレスがある、介助を拒否している など
介助の工夫
食べようとする行為がみられたり、一口・二口でも食べられたりすれば大丈夫です。
・リラックスできる食事場面や雰囲気を整えましょう(あせらず、ゆったりとした気持ちで介助する)
・介助者の態度は、明るく笑顔での声かけの配慮を心がけましょう
・食事品数を多くしないようにしましょう
・食事に時間をかけましょう(ただし1時間以内)
・食事中の過剰な声かけを控えましょう
・他人や周りを意識させないように配慮しましょう
自分から食べようとしない場合や、食事への意欲がない場合の介助
主な原因には
食事以外に気になることがある 介助者への依存心が強い 睡眠が十分にとれていない
食べる意識や食事への意欲がもてない 食事内容が好みにあわない
生活リズムに乱れがある
介助の工夫
自力で食事がとれない場合には、繊細な心情を十分に配慮しながら、あせらず、根気よく介助に食事がとれるようになるまで温かく見守りながら、介助に努めることが大切です。
・水分や汁物から優先して摂取をしてみましょう
・嗜好品など、好みのものから1品ずつ介助をはじめてみましょう。
・おにぎりやパンなど手でつかんで食べられる形態にしてみましょう
・使っている食具の見直しをして、使いやすいものにしてみましょう
・食事の場所(景色の良い窓際など)を変えてみましょう
・介助者の位置や高さを変えてみましょう。
・無理に、急がすようなことをしないようにしましょう。
食事中に、口の中に食物が残ったままで眠ってしまう方への介助
主な原因には
身体機能の衰え 覚醒状態の持続が困難 食事環境や食事量の負担 摂食機能の低下 疲労度が大きい
食事行動がとれない 自分の世界に入りやすい 周囲に順応しない 気分転換がうまくいかない
薬の副作用 
介助の工夫
食事中に眠ってしまう人は、一度にたくさん食べることができません。1日3回の食事の時間以外に食事と食事の間にも水分や嗜好品を摂るようにしましょう。
・食事中に時々背中等をさすりましょう
・声かけは耳元で行いましょう
・身体が傾いてしまった場合には、ゆり動かさず、姿勢の崩れをなおしましょう
・食事中に深呼吸や、両腕の軽い運動をしてみましょう
・1回の全体の食事量は少なめにしましょう
・食事時間を長引かせないようにしましょう
・目が覚めた後には、水分と主食を中心に食べてもらいましょう
・水分は、香りのあるもの(ほうじ茶、玄米茶など)をすすめてみましょう