"死別を支える地域コミュニティ"形成に向かう研究活動:地域の人々に必要な死別サポートとは?

聖路加国際大学 在宅看護学 小野若菜子

2023.03.06

研究のきっかけ

 近年、地域や近隣との関係性の希薄化、社会的孤立が課題となっています。こうした状況は、死別に遭遇する人々にも悪影響を及ぼす可能性があります。死別によって、家族介護者には、喪失感や葛藤、不安などが生じ、健康状態の悪化が心配されています。
 こうした時、病院に行くほどではなくても、ちょっと身近な人々の支えがあることで、助けになることもあります。近隣の人々といったインフォーマルな支援、住民の理解や協力といった地域基盤の形成も大切になるでしょう。また、近隣に相談できない場合もありますから、地域に相談できるフォーマルな場があれば、助けになるかもしれません。
 このようなことから、地域の人々に必要な死別サポートとはどのようなものか探求し、"死別を支える地域コミュニティ"形成に向かう研究活動に取り組むこととしました。

◆本研究活動における"死別を支える地域コミュニティ"とは,身近な生活圏において,死の前後において,死別を支える住民のつながりとします1)

研究内容

Step1 インタビュー調査:死別を経験する家族を支えた地域の人々の関わり2)
 地域活動に携わり、近隣の死別の相談を受け、見守ったことのある住民、施設等の公共機関に勤務している職員にインタビューを行いました。その結果、【助けを求められる地域の関係をつくる】【広くみんなの幸せを願いながら人とかかわる】という、いざという時に助けられる地域の形成に取り組まれていることがわかりました。また、療養から看取り、死後しばらくしてから、家族の手伝い、見守りがなされていました。長年の顔見知りの関係性が信頼関係に発展することで近隣の死別を見守るという交流が生じることがわかりました。

Step2 アンケート調査:地域包括支援センターの死別サポートの実施状況3)
 地域包括支援センター(以下,センターとする)では、介護予防,相談事業,地域ネットワークづくり等が行われています。死別サポートの役割ということは、明確に位置付けられたものではありませんでしたが、先行文献から、死別や家族支援に関わっている状況を知ることができました。そこで、アンケートを実施した結果、死別に関する相談を受けたことが「ある」 は,センター 472 ヵ所(64.0%)と6割を超えていました。今後,地域での相談事業や見守り 事業等を通して,地域の死別サポートに貢献する可能性も考えられました。

今後に向けて

 今回は、"死別を支える地域コミュニティ"形成を取り上げました。近隣でちょっとした相談や見守りが行われていることもあるようです。しかし、周囲に助けてもらえる人がいない状況もあります。そのような場合には、近くの公共機関等に相談できる場を見つけておくとよいでしょう。また、市民が集う場において、ちょっとした見守りがあることも大切になります。
 死別に遭遇した際、死別した人に声をかける時,市民が知識をもち,行動に移せるよう,市民教育に取り組む,地域コミュニティ形成が必要であると考えられます1)。市民、専門職等が力を合わせ、死別を支える地域コミュニティが形成されることで、お互いを思いやるまちになり、さらには人々の健康の維持・増進、病気の予防などにもつながるのではないでしょうか。

文献

1)小野若菜子,永井智子(2023). "死別を支える地域コミュニティ"形成に向けた教育プログラムの実践報告(印刷中).日本看護科学学会誌.
2)小野若菜子,永井智子(2018).死別を経験する家族を支えた地域の人々の関わり.日本地域看護学会誌,21(2),40-48.
3)小野若菜子,永井智子(2021).地域包括支援センターにおける死別サポートの実施状況に関する全国調査 ―死別サポートを実施した地域包括支援センターの特徴に焦点をあてて,日本看護科学会誌,41,363-372.

◆研究は JSPS 科研費 JP15K11866 の助成を受けたものです.

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