間質性肺炎のひとつに特発性肺線維症(IPF; idiopathic pulmonary fibrosis)があります。この病気は、乾性咳嗽や呼吸困難感により、自立した生活を営んでいく力を徐々に奪われていく、心身の負担が大きい難病です。自分のことができず、他者の負担になると思い悩むことは、尊厳(ディグニティ)が脅かされていると考えられています。
わたくしは、IPFで療養されている方々の生活の質の向上に看護で貢献したいと考え、慢性疾患看護専門看護師の資格を取得し、尊厳に着目したケアの開発に向け、臨床での看護ケアと並行して研究をはじめました。
IPFで療養されている方々にインタビュー調査を行った結果、体を動かすと後から息切れが追いかけてくるようになったことに戸惑い、逃れ難い心身の苦痛に無力な思いを感じながらも、生活動作をゆっくり行い、制限のある生活に慣れていこうとされていました。また、これらの体験にはどのような意味があるのだろうとの思いを巡らせ、今を大切に生きるという体験をされていたことがわかりました。
上記1.のインタビュー調査の結果をもとに、①息切れなどの症状を観察する方法、②普段の生活動作で生じる息切れを減らす方法、③生活する上で気を付けること、④テーマに沿って思いや体験をお話いただくライフレビュー、の4つで構成している、尊厳に着目したケア(ディグニティ・センタード・ケア)・プログラムを作りました。
このケア・プログラムをIPFで療養されている方々に受けて頂きました。その結果、IPFと生活していくための知識が得られ、着替え、整容、ならびに外出など普段の生活動作を変えたことにより、息切れが有意に減少し、生活の質の向上がみられました。また、このプログラムで取り入れているライフレビューの実施については、療養者ご本人の希望に沿い、個別の対応をとる必要があることがわかりました。
呼吸器看護を専門としている看護師の皆さんに、IPFで療養されている方々への看護援助の現状、および学修を必要とする内容を調査し、その結果をもとに、IPFで療養されている方々への看護を学修できる看護師向け教材を作りました。この教材が目指しているのは、IPFで療養されている方々の食事や入浴などの日常生活動作、精神的ストレスなどによる息苦しさの軽減と、生活環境を整え、ご自分を大切に思う気持ちをひき出せる看護を提供できることです。
この教材を、呼吸器疾患を専門とする看護師の皆さんに受講して頂き、その結果をもとにさらに改良を進めています。様々な場所でケアに携わられている看護師の皆さんが、IPF看護を気軽に学修できる機会を提供し、IPFで療養されている方々の生活の質の向上に貢献していきたいと考えています。
尊厳に着目したケアは、コミュニケーション、特に対話が重要な役割を担っています。どのような対話や関わりがケアに役立つのかを検討し、開発したプログラムや教材をさらに実施しやすいものにしていきたいと考えています。
この研究活動は、研究に協力してくださった皆さんの、「どこで暮らしていても、質の高いケアが受けられる社会が到来すること」への強い願いが籠められています。開発したプログラムと教材は、研究に携わった方々のいのちが籠められたものとして、次世代へとつないでまいりたいと存じます。
IPFで療養されている方々の尊厳に着目したケア(ディグニティ・センタード・ケア)・プログラム
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研究内容1.
1)猪飼やす子 (2016). 特発性肺線維症患者が呼吸困難感と共に生きる体験. 日本看護科学会誌, 36, 238-246. doi:10.5630/jans.36.238
2)猪飼やす子 (2020). 特発性肺線維症をもつ人々の病いと共に生きる体験, 聖路加看護学会誌, 23(1-2), 13-19. doi: 10.34414/00015332
3)Igai, Y. (2019). End-of-life trajectory of coping and self-care of patients with idiopathic pulmonary fibrosis: A meta-synthesis using meta-ethnography. Japan Journal of Nursing Science, 16(1), 47-61. doi:10.1111/jjns.12213
研究内容2.
1)Igai, Y., Porter, S. E. (2023). Development and applicability of a dignity‐centred palliative care programme for people with idiopathic pulmonary fibrosis: A qualitative‐driven mixed methods study, Nursing Open, 10(1), 8-23. doi: 10.1002/nop2.1274