子ども時代に被災した人が意味があると感じる震災体験共有の場

聖路加国際大学 第3年次学士編入担当(地域・在宅看護学) 田中加苗

子ども時代に被災した人が意味があると感じる震災体験共有の場
2024.01.30

この度の令和6年能登半島地震により犠牲となられた方々に心よりお悔み申し上げるとともに、
この災害によってつらい思いをされている皆様に心よりお見舞い申し上げます。
また、様々な場所で復旧復興支援にあたられている方々、それを助けてくださっている方々に深く敬意を表します。

研究のきっかけ

 「災害で被災した経験を人に話すこと、話さないことには、人間にとってどんな意味があるのだろう?」これが私がずっと関心を持っているテーマです。これまで主に子ども時代に地震で被災して大人になった人たちにお話しを聞いてきました。災害によって人は環境の変化を強いられ、大事なものを喪失し、それでも生きていかねばならない現実に対応していきます。その過程ではつらいこともあれば、良いこともあります。それは大人だけでなく子どもにおいても同じです。
 子どもたちが、被災したことの意味を自分の中に落とし込んでいくためには、自分の言葉で経験を振り返る(話す・書く)ことが大事だと言われていますが、そのタイミングは人それぞれで、他人が無理強いすることはできません。私がこれまでお会いしたなかには、色々な理由から自分の震災体験を20年以上胸に秘めていた人もいました1)
 このようなことから、子ども時代に被災した人たちのなかで、どれくらいの人が震災体験を他人に話したことがあるのか、話す話さないの選択には何が影響しているのか、ということを知り、「子ども時代に被災したことがある人として生きていくことを支える看護ケア」を考えることにしました。

研究内容

 小学校高学年時代に阪神・淡路大震災で震度6以上を記録した場所に住んでいた人にアンケート調査を行いました2)。阪神・淡路大震災は1995年に兵庫県で起きた大きな災害で、調査時は震災から27年後でした。全部で462名の方が27年間の経験を振り返って回答してくださいました。

専門職に話すより震災のすぐあとに同世代と話すことに意味があった

 462名のうち61%の方が、震災後から27年の間に、自分にとって震災体験を話して良かった、話した甲斐があったと思える経験があったと答えました。そしてそれは、震災から1年以内のことで、同じ震災を経験した同世代の人が相手だったという回答が最多でした。震災直後からそばにいた友人同士で震災体験を振り返って話したことが、自分にとって意味があったと思って生きている人が多いと解釈できました。一方、医療職や心理職に話したことが良かったと回答したのは2.1%(10名)に過ぎませんでした。

今後も同じような経験をした同世代同士で話すことを希望している

 今後自分の被災経験を話してもよいと思える相手として、同じ震災を経験した同世代の人々を希望した人が43%で、次に多かったのは、これまでに震災を経験したことのない子ども達でした。大人になっても近しい経験をした同世代の人と震災体験を共有することに意味があるのでは、という期待があるということと、震災未経験の子ども達に震災体験を伝えたい希望があることが窺えました。

話せないのは「自分より被害の大きかった人たちへの配慮」のため

 「話す」ことを選択された人がいる一方で、全体の25%の方がこれまで誰とも震災体験を振り返って話したことは無いと回答しました。また、話したことがある人も含めて、7割の方がこれまでに震災体験を「話しづらい」と感じたことがあったこともわかりました。その理由で最も多くの人が選択したのは「自分よりも被害の大きかった人たちへの配慮として」でした。

今後に向けて

 災害時に子どもは弱者に分類されます。カラダはまだ小さく、ココロも未熟だからと、保護する対象になります。もちろんそれは子どもの命と健康を守るために必要ですが、子どもは子どもたち同士で助け合える力を持っていることも、今回の研究結果から改めて感じました。震災直後には、子ども同士が一緒にいられるような環境整備に効果があると考えます。また、大人になっても同じような経験をした人と話す機会や、子どもたちへ震災体験を共有する機会が、当該の人々にとって意味があるということがわかりましたので、このような場を設けられるようにしていきたいと考えています。
 同時に、話したいのに「自分よりも被害の大きかった人たち」に遠慮して話せない人が一人でも減るような社会になっていくよう、まずは、「話さない」「話しづらい」という経験を多くの人がしていることを社会に知っていただく働きかけもしていきたいと思っています。

1)田中加苗、佐々木吉子(2021).阪神・淡路大震災の被災経験がある人として生きることの意味-学童後期に被災後医療的介入を受けなかった人々を対象として-,日本看護科学学会誌,41, 494-502.
2)Tanaka, K(2023). A questionnaire survey of storytelling experiences among people affected by the 1995 Great Hanshin-Awaji Earthquake in their late primary school years, Health Emergency and Disaster Nursing, doi: https://doi.org/10.24298/hedn.2022-0008

  • 本研究は、[2021-2022年度 日本学術振興会 科学研究費助成事業 研究活動スタート支援「学童後期に阪神・淡路大震災で被災した人々の震災体験語りの実態とニーズの全国調査(21K21123)」]の助成を受けて行いました。
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