「女性がん患者の妊娠」に対する看護師の役割向上のために

聖路加国際大学 ウィメンズヘルス・助産学分野 森 明子

「女性がん患者の妊娠」に対する看護師の役割向上のために
2019.02.01

研究のきっかけ

moriakiko.jpgがん医療の進歩により、がん患者の生存率、治癒率が向上し、治療後の人生におけるQOLの維持が重要視されており、その一つに女性の妊娠があります。
今日、生殖医療技術が進歩し、受精卵の凍結や卵子の凍結、卵巣組織の凍結などができるようになりました。そして、従来検討されることのなかった小児から若い成人期にがんに罹患した人への将来の妊孕性への配慮が必要となり、妊娠出産を望むことができる手段が出現しています。そこで、がん患者のケアに日常的に携わる看護師(以下オンコロジーナースとする。)は、患者が、がん医療と生殖医療を混乱なく選択できるよう案内役となることが求められますが、そのための知識や意識が不足しているという現状があります。
今回の研究は、教育プラグラムの構築に先駆け、オンコロジーナースの妊孕性温存療法に関する知識や意識、経験などを調査し、それらと看護師の背景にある要素との関連を明らかにすることを目的に行いました。

研究の内容

poster.jpgA地方4県のがん診療連携拠点病院で勤務するオンコロジーナース、学習会に参加したオンコロジーナースを対象に、無記名自記式のアンケート調査を実施し、107名の回答が得られました。結果を以下に示します。
妊孕性温存療法をよく知らない者は約7割であり、約3割の者は、医師から患者への治療方針の説明時や、院外での学習会、専門誌などで情報を得て、まあまあ知っていると回答しました。
次に、勤務病院において妊孕性温存療法が導入されているかわからない者は約5割であり、導入していると回答した者は約2割弱でした。
そして、妊孕性温存療法に関して患者と話をし、相談・質問を受けた経験がない者は約8割でした。あると回答した者にその内容を問うと、治療後の妊娠・出産の可能性、化学療法による卵巣への影響、治療後の性生活などでしたが、一方で、「患者が意思決定するための対応が難しい」、「十分な知識がなく支援体制もわからず対応が困難であった」との自由記述がありました。また、相談や質問を受けた時にスタッフ間で共有するシステムがない者が、約5割いました。あると回答した者にその手段を問うと、「がん領域看護師のカンファレンス」「がん領域の認定・専門看護師へのコンサルテーション」などがありました。
最後に、オンコロジーナースの妊孕性温存療法の知識や意識、経験、学習ニーズには、年齢、最終学歴、学会入会の有無、看護資格に加えて助産師や保健師の免許や認定資格の有無が関連していることがわかりました。

今後に向けて

日常的に女性がん患者へ接していても、約7割の者は妊孕性温存療法をよく知らず、それが自施設に導入されているか知らない者が約半数を占め、実際に患者との関わりに困難感を抱いているナースの存在も明らかになりました。生殖医療技術の進歩により、妊孕性温存療法が普及し、約9割強のオンコロジーナースは、妊孕性温存療法に対する知識を得ることへの意欲を示していることからも、学習の機会を得ることが必要であると考えます。オンコロジーナースの知識や意識、学習ニーズは、年齢や資格の有無が関連することも明らかになり、今後、初学者向けと熟練者向けのそれぞれのニーズにあった学習の機会を提供するために、教育プログラムを開発していきます。

詳細はこちらをご覧ください

女性がん患者のリプロダクティブヘルスに関するオンコロジーナースの学習と連携のニーズ -妊孕性温存療法に焦点を当てて− 森明子ら,日本がん看護学会誌31巻,137-144,2017

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